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名曲「DESTINY」の鈴木茂の短い歪んだカッティング

松任谷正隆と結婚し、彼がアルバムのすべてをプロデュースするようになって、いちばん変化したのは、歌バックのサウンドの多様化だ。とにかく松任谷正隆はユーミンの音楽性を最大限に効果的に聴かせるアレンジを行なった。

ものすごく細かい話になるが、このアルバムにも収められた「DESTINY」という曲のアレンジについて。ギターには当代随一と言える松原正樹と鈴木茂が起用される。歌が入ってすぐ、ほんの短い鈴木茂の歪んだカッティングに驚かされる。わずか数秒の短いカッティングなのだが、これがこの曲のイメージを引き立てている。

このカッティングが無かったら、「DESTINY」はあそこまでエモーショナルにならなかったと思う。ミリ単位まで拘わる松任谷正隆のアレンジはユーミンを 活かすべく最適化されている。

曲作りに「マンタ」は一切口を出さない

1980年代のある時、ユーミンにプロデューサー/アレンジャーとしての松任谷正隆について訊ねたことがある。

「私はひとりで曲を作る。そこへマンタ(松任谷正隆の愛称)は一切、口を出さない。私の曲作りを信頼してくれているのだと思う。こうして出来上がったデモテープをマンタは アレンジ、プロデュースする。その作業に私は一切口を出さない、信頼しているから。そうして歌入れの時に、ああ、あの曲はこうアレンジされたんだと初めて分かるの。この完 全分業を私は気に入っているわ」

『Neue Muzik』の聴き処はユーミンの楽曲だけでなく、華麗かつ流麗といえる松任谷正隆のアレンジにもある。

昨近、ユーミンの音楽がYOASOBIなど若手人気ミュージシャンに支持され、コラボレーションも行なわれた。ユーミンの音楽にはどこかエヴァーグリーンの味わいがある。

『Neue Musik(ノイエ・ムジーク)』

『Neue Musik(ノイエ・ムジーク)』
【DISC 1】
01.守ってあげたい
02.恋人がサンタクロース
03.BLIZZARD
04.サーフ天国、スキー天国
05.ダイアモンドダストが消えぬまに
06.きみなき世界
07.SWEET DREAMS
08.ノーサイド
09.時をかける少女
10.ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ
11.Valentine’s RADIO
12.青春のリグレット
13.Hello, my friend
14.DESTINY
15.埠頭を渡る風

【DISC 2】
01.リフレインが叫んでる
02.最後の嘘
03.真珠のピアス
04.DANG DANG
05.青いエアメイル
06.VOYAGER〜日付のない墓標〜
07.春よ、来い
08.ANNIVERSARY
09.輪舞曲(ロンド)
10.DOWNTOWN BOY
11.シンデレラ・エクスプレス
12.カンナ8号線
13.真夏の夜の夢
14.groove in retro
15.愛は…I can’t wait for you, anymore
16.卒業写真(special track)※初回プレス限定盤のボーナストラック

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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