フェラーリ348がNSXに惜敗して涙
当時私はフェラーリを買うために生きていたと、というほどのフェラーリ好きだった。それゆえ、私が一番気になっていたクルマはフェラーリ348で、失礼な言い方をすれば、NSXなんて眼中になかった。性能だって348のほうが圧倒的に凄いと思っていた。
しかし、現実はまったく違っていた(泣)。
『ベストカー』でNSX対ライバルという企画を展開するにあたり、JARI(日本自動車研究所)の谷田部テストコース(茨城県)にNSX、スカイラインGT-R、フェラーリ348、ポルシェ911を持ち込んでフルテストを敢行。バイトの私はほかの仕事があって、テストに同行できなかったのだが(泣)、NSX対フェラーリ348のテスト結果は以下のとおり。
■0-400m加速 NSX;13秒70、フェラーリ348:13秒80
■0-1000m加速 NSX: 24秒91、フェラーリ348:25秒30
■0-100km/h加速 NSX:5秒58 フェラーリ348:5秒60
■最高速 NSX:266.0km/h フェラーリ348:263.0km/h
そう、すべてのテストでNSXが僅差で勝ち全勝。データでは僅差だが、私にとっては惨敗だ!! この結果に落胆し、涙した。私にとって大事件だった。憧れの存在を完膚なきまでに叩きのめされたことで、NSXの凄さを実感した。
NSXの中古相場は爆上がり
日本を席巻したNSXもデビューから35年となる。今でもホンダファンだけでなく、日本のクルマ好きを魅了しているのだが、中古車がとんでもないことになっている。
NSXはモデル追加、改良などを受けているが、1989~2001年の3Lエンジンのリトラクタブルヘッドライト、2001~2005年の3.2Lエンジンの固定ヘッドライトの2タイプに大別することができる。ここでは前者を前期、後者を後期とすると中古車相場は以下のようになる。
■前期モデル(3ℓ):5MTが1000万円前後~/4ATが650万円前後~
■後期モデル(3.2ℓ):6MTが1100万円前後~/4ATが750万円前後~
スペシャルモデルのタイプR(前期)、NSX-R(後期)はほとんど流通しているクルマはないが、前期/後期とも3000万円前後からとなっているが、5000万円級の個体もある。もはや言い値状態になっている。それでも欲しい人は買う。羨ましい限りだ。
NSXは高騰は今が上限!?
NSXを安く(安くはないけど)買いたいなら、前期型、後期型とも4ATモデル。年式よりもこまめにメンテナンスをして程度のいい状態を保っているかどうかがポイント。クルマのキャラクター上、中古車に出回っているモデルは5万km前後の個体が多いが、10万㎞オーバーの個体もあり。
走行距離が短い個体は、買い取り価格、中古車価格とも高い。一方、走行距離が10万kmを超えるようなクルマの場合は、買い取り価格は安くたたかれ、中古車市場では高く売られている傾向にある。言ってみれば、店として美味しいクルマと言える。
日本のスポーツカーの中古車バブルにより、NSXの中古車も高騰し、高値安定が続いているが、今がピークと見ている業者もいる。さてどうなるか。個人的には、スペシャルなクルマゆえ、高くていいと思っている。
NSXが苦戦した理由
日本でNSXは2005年までに約7400台が販売された。1991年の約4000台をピークに1992年から3桁、1998年から2桁と販売台数を落としていった。
タルガトップのタイプT、究極のタイプRの追加、排ガス規制への適合、カラーバリエーションなどいろいろなモデルを追加したが、前述のとおりマイチェン前とマイチェン後はあるにせよ基本は1モデルのみ。
それに対しホンダがライバル視していたこの分野の王者フェラーリは、NSXのモデルライフ中に348、F355、360モデナと3タイプを登場させている。数を出せばいいってもんじゃないが、性能は高くてもユーザーへの訴求という点でNSXは厳しかったのかも。
そのNSXも2015年に2代目のNSXを登場させたが、2022年10月に販売を終了してしまった。こちらはアメリカ主導の開発ということもあり、日本人の琴線を刺激することなく終わった感があるのは残念。
2028年、BEV(電気自動車)のスーパースポーツとしての登場が有力視されている3代目NSXの登場に期待したい。
【NSX主要諸元】
全長4430×全幅1810×全高1170mm
ホイールベース:2530mm
車重:1350kg
エンジン:2977cc、V型6気筒DOHC
最高出力:280ps/7300rpm
最大トルク:30.0kgm/5400rpm
価格(東京地区):800万3000円(5MT)/860万3000円(4AT)
【豆知識】
2代目NSXは2015年にデビュー。電動化スポーツの先陣を切ってSPORT HYBRID SH-AWDという画期的な技術を盛り込んだハイブリッドスポーツだ。開発の主体はアメリカで、オハイオ工場で生産され、アメリカから輸入する形で日本で販売。2022年に走りを強化したタイプSを登場させ、それが完売となった時点で終了となった。世界一乗りやすいスーパースポーツだったが、ライバルに対しインパクトに欠け販売面では苦戦した。
市原信幸
1966年、広島県生まれのかに座。この世代の例にもれず小学生の時に池沢早人師(旧ペンネームは池沢さとし)先生の漫画『サーキットの狼』(『週刊少年ジャンプ』に1975~1979年連載)に端を発するスーパーカーブームを経験。ブームが去った後もクルマ濃度は薄まるどころか増すばかり。大学入学時に上京し、新卒で三推社(現講談社ビーシー)に入社。以後、30年近く『ベストカー』の編集に携わる。
写真/HONDA、ベストカー