「戦争で荒廃した東京の子どもたちに蛍を見せたい」 都心の蛍と椿山荘の70年の物語 

東京都心で、蛍観賞ができることをご存知だろうか。「ホテル椿山荘東京」(文京区関口)では、2024年5月17日から6月30日まで「ほたるの夕べ」を開催中だ。同イベントは1954(昭和29) 年にスタートし、2024年で70…

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東京都心で、蛍観賞ができることをご存知だろうか。「ホテル椿山荘東京」(文京区関口)では、2024年5月17日から6月30日まで「ほたるの夕べ」を開催中だ。同イベントは1954(昭和29) 年にスタートし、2024年で70周年を迎えた。「(戦後の)荒廃した東京だが、子どもたちに蛍を見せたい」「上京した若者に、蛍舞う原風景に故郷を感じて欲しい」という、同ホテルを運営する「藤田観光」の創業者・小川栄一(1899~1978年)の思いから始まった。蛍とホテルを繋ぐ物語と、イベントの魅力についてお伝えしたい。

歴史ある庭園で「東京雲海」や竹あかりと蛍の共演を楽しむ

「ホテル椿山荘東京」は、神田川に面した小高い丘に建ち、川に向かって広大な庭園が広がっている。明治の元勲・山県有朋(1838年〜1922年)の邸宅だった場所だ。同ホテルは、山県邸の多くの訪問客を魅了した自然豊かな庭園を受け継いでいる。同イベントが行われるのは、この歴史ある庭園だ。

庭園の約4分の3を覆うダイナミックな「大雲海」は一見の価値あり 画像提供:ホテル椿山荘東京

イベントの期間中、三重塔を望む庭園では、蛍の光とともに木々を1000灯の光で照らすライトアップや、霧を発生させて幻想的な空間を生み出す「東京雲海」が時間に応じて楽しめるところも魅力だ。小さな滝の「聴秋瀑(ちょうしゅうばく)」から一軒家のレストラン「木春堂(もくしゅんどう)」へ続く25mの小路エリアや、三重塔裏の椿の苔庭周辺には、竹ぼんぼりと竹まりが装飾されており、日没後は幻想的な竹あかりも堪能できる。

25mの小路を照らす竹あかりの暖かな光

蛍1万5000匹の寄贈、人工養殖研究所を設立

同ホテルでは「ほたるの夕べ」のために蛍の専門家から指導を受けつつ、庭園に幼虫の飼育施設を設置したり、沢の流れを蛍が生育しやすい速さに改良したりと、さまざま工夫を施してきた。ところで、そもそもホテル内で蛍を飼育するという取り組みはどのような経緯で始まったのだろうか。

「イベントは、ご厚意でホテルに寄贈いただいた1万500匹の蛍を広大な庭園で観賞いただいたことから始まりました。創業者の熱い思いを受け継ぎ、1969年には人工養殖研究所を設立しています。今は当時の施設はありませんが、専門家からご指導をいただきながら飼育施設を整え、蛍が生息できる環境作りを徹底し、人も蛍も共存できるビオトープ(野生生物の生息空間)を目指しています」と、「ホテル椿山荘東京」広報の園部咲乃さんが説明する。

赤い弁慶橋の下を流れるほたる沢 画像提供:ホテル椿山荘東京

蛍が舞う庭園を守るために心掛けていること

蛍の観賞時期に合わせ、庭の余分な枝や葉を切り落とす木々の剪定も、幼虫が上陸する3月末前までには完了させているそうだ。3月~7月は蛍のいる沢の周辺で薬剤を散布せずに土壌を美しく保ち、イベント期間中は観賞エリア内での「東京雲海」の霧の噴射を行わないなど、日々のスタッフの気配りの積み重ねによって、安定して蛍が観賞できる庭が保たれている。

蛍はとてもデリケートな生き物

庭園内でおすすめの観賞エリア

因みに「ほたるの夕べ」を楽しむ際におすすめの観賞エリアは、「水車・ビオトープ」周辺だ。日本の里山のようなどこか懐かしい風景を背景に、美しい光の舞を観賞できる。

「水車・ビオトープ」周辺に舞う蛍 画像提供:ホテル椿山荘東京画像提供:ホテル椿山荘東京

赤い弁慶橋の下にある「ほたる沢」には、蛍の餌が生息できる環境が整えられているので、橋の上から蛍の光を眺めることができるところも魅力だ。ほかにも、秩父山系の清らかな地下水が湧き出る「古香井(ここうせい)」や、蛍が好む水辺の環境を活かして設置した屋内の「ほたるの洞窟ビオトープ」でもじっくり観賞できる。

ぜひ散策しながら自分なりのお気に入りのエリアを見つけてみてほしい。

イベントがさらに楽しめるプライベートステイ

さらに、ゆったり蛍観賞を楽しむなら、2024年6月7日まで開催中(期間中特定日開催)の「《夕・朝食付き》プライベートホタルナイト」プラン(1泊2名9万6800円 ~)を予約するのがおすすめだ。14時からホテルスタッフの解説付きでガーデンツアーツアーを体験、日本料理店「みゆき」で和食ディナーを楽しんだ後、閉園後の庭園に招待される1日3組限定の特別な宿泊プランだ。

趣のある日本料理店「みゆき」の店内

日本庭園を眺め、会席料理を味わう

日本の風雅を再現した「みゆき」の店内では、庭園の眺望を楽しみながら、彩り美しい「悠楽御膳と蛍の会席料理」を味わうことができる。全8品の「会席~蘭~」は、初夏にぴったりの滋養に満ちたラインナップとなっている。

「会席~蘭~」の「本日の三種 あしらい」

おすすめのメニューは、「鰻玉蜀黍焼 粉山椒 山桃 あしらい」。ふっくらと香ばしい鰻の蒲焼を、甘みのある裏ごししたトウモロコシと組み合わせ、季節感たっぷりの味わいに仕上げている。ピリッとした粉山椒や、酸味のある山桃が程よいアクセントとなっている。

「鰻玉蜀黍焼 粉山椒 山桃 あしらい」

コラーゲンが豊富なすっぽんで出汁をとった「丸玉地吸い 焼餅 焼葱 青味 針生姜」も、何とも滋味深く、印象的だ。やわらかな焼餅やうま味たっぷりの焼葱と相性抜群である。

「丸玉地吸い 焼餅 焼葱 青味 針生姜」

食事後は、ホテルスタッフの解説に耳を傾けながら、都会の喧騒とは無縁のプライベートな庭園で、蛍観賞や竹あかりを満喫しよう。森のような静謐な空間でいつもとひと味違う非日常のひとときが過ごせるはずだ。

豊かな自然と、 歴史を感じさせる史跡のある庭園

「ほたるの夕べ」
開催:2024年5月17日(金)~ 6月30日(日)
観賞時間:18時半~23時 ※庭園入場券最終入場20時まで
入場方法:庭園入り口に設置された読み取り機に下記をかざして入場
・宿泊者:カードキー(ルームキー)
・その他施設利用者:施設で案内する二次元コード
・庭園入場券購入者:入場券
※庭園の入場は、施設利用者と、前売り券「庭園入場券」(大人:2000円、小学生:1000円)を持つゲストに限る

文・写真/中村友美
フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験し、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り。

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