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■他愛ないと思っていた機能が、誰かの偏愛に辿り着く

 だからつくづく私も飽きていたのだと思う。あまりに飽きたから、ある時たわむれに、ポイントともいえないポイントで、アピールともつかないアピールをやってみようと考えたのだ。

 洗濯の話でもなく乾燥の話でもなく、ましてや電気代や効率の話でもなく、ただ「洗濯槽の回る様子が見える」ことをアピールした投稿をSNSで行った。縦型の洗濯機にもかかわらず、フタが半透明で槽内にライトがあるから「ぐるぐる回るのが見えるよ」と、他愛のない、かつ誰が得するのかというアピールをしたのだ。

 そこから起こった不思議な現象に、私は心底おどろいたのを覚えている。その投稿へ、次々と「私のための洗濯機だ」という声が寄せられたのだ。

 そして見る見るうちに「回る洗濯機を眺めるのが好き」と告白する人々がやってきた。告白どころか、ぐるぐる回る洗濯機を見ながらのむ酒のうまさを力説する人まで現れた。

 ただの広告がまるで、同好の士が恥ずかしそうに出会う部屋のようになっていったのだ。

 同時に私は、いかに多くの人が(おそらくはドラム式洗濯機の)回る様子をぼーっと眺めることで、日々の精神的な平穏や内省的な時間を得ているのかを知った。それはソロキャンプがブームになり、焚き火を眺めるのが好きな人の存在が可視化された時と似ていたかもしれない。

 実はこの時、私は二度おどろいていた。なぜなら、回る洗濯機を密かに愛好していた士こそ、私だったのだ。私はぐるぐる回る様子を見たくて、ドラム式洗濯機の前に夜な夜な立つ人間だった。

 もちろんそんな癖をだれに言ったこともなかったし、言おうと考えたこともなかった。だから「私だけじゃなかったんだ」と知っておどろいたのだ。そのおどろきは孤独を慰撫されたとさえ感じるものだった。

「洗濯機がぐるぐる回るのを存分に見えますよ」なんて、「あっちよりウチ」を考えるかぎり、ぜったいに浮上するアピールポイントではない。100回会議したって出てこない案だろう。おそらく私はあの時、ライバル製品ばかりを見る広告にうんざりして、自分を見て広告をしようとしたのだ。

 そうしたら自分は自分だけじゃないことを知った。洗濯機の他愛もない機能が本質をほったらかしにして、だれかの偏愛や執着にまで届くことを知ったのだ。貴重なエビデンスを得た私は、それから嬉々として小さな小さな機能をためらいなく推すようになった。

 ウチの洗濯機は衣服をきれいにし、ふんわり乾燥させながらなお、ある種の人々と私に穏やかな時間を提供できるのだ。その小さな自信にこそ、私は胸を張ることにしている。

文・山本隆博(シャープ公式Twitter(X)運用者)
テレビCMなどのマス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートで、企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索している。2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021ACCブロンズ。2019年には『フォーブスジャパン』によるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。近著『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社ビーシー)

まんが・松井雪子
漫画家、小説家。『スピカにおまかせ』(角川書店)、『家庭科のじかん』(祥伝社)、『犬と遊ぼ!』(講談社)、『イエロー』(講談社)、『肉と衣のあいだに神は宿る』(文藝春秋)、『ベストカー』(講談社ビーシー)にて「松井くるまりこ」名義で4コママンガ連載中

■シャープさんの「家電としあわせ」シリーズ

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山本隆博
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