かつての花街の趣を残し、個性的な飲食店が軒を連ねる東京の新宿・荒木町エリア。そんな場所に、芸術的な創作かき氷で注目を浴びている「上原食堂」がある。予約開始後、わずか1分で満席になってしまうこともある話題店だ。手掛けるのはフレンチのシェフ。この夏、さらに話題を集めそうな同店の魅力に迫りたい。
豪華客船のシェフの経歴が「かき氷に生かされている」
店舗は、地下鉄丸ノ内線「四谷三丁目駅」から徒歩3分ほどの好立地にある。ウッディな建物に一歩足を踏み入れると、カウンター席とテーブル席、アンティーク感あふれる家具を備えた、モダンで落ち着いた空間が広がる。
シェフの竹中誠治(せいじ)さんは、都内ホテルや会員制レストランでの経験を経て、世界を一周する日本籍最大の豪華客船「飛鳥II」でコックを7年間務めた経歴を持つ。日本に帰国後は、秋葉原に古民家フレンチレストラン「Kufuku±」のシェフへ。日本の伝統的な発酵や熟成というテクニックを使いつつ、国内の食材を使ったフランス料理を提供していた。そんなこれまでの経験で培った料理の技術が今もなお、かき氷に生かされているのだそう。
「僕の作るかき氷には、豪華客船で世界を7周半した船旅の経験がかなり反映されていると思います。周遊先では各国の地産食材を使い、フレンチをベースにしながらも国ごとの料理文化を吸収し実践してきたので、その時得たテクニックをかき氷作りにも取り入れています。さまざまなジャンルの有名シェフがゲストとして船で料理を振る舞うことも多かったので、そこで得た知識も役立っていますね」(竹中さん)
醤油など和の調味料も
「上原食堂」のかき氷は、フルーツが使われたものももちろんあるが、苗目ハーブ農園のハーブやチーズ工房千のクラフトチーズ、厳選された肉・魚などの異素材を巧みに掛け合わせて作られた、個性的なメニューが多い。フレンチをベースにしつつ、醤油をはじめとする和の調味料をプラスし、奥深い味わいに仕上げるところも特徴的だ。
「意外性のある食材を使うことが多いと言われますが、こんな食材の組み合わせ本当に合うの?と思われるものを使って合った時の方が、当たり前の構成の時より感動が大きいと思うんですよ。僕は道なき道をいきたいので、普通のおいしいを超えていくことを常に目標にしています」(竹中さん)
コロナ禍がきっかけ、都内人気店のかき氷に感動
ところで、なぜフレンチのシェフがまったく異業種であるかき氷を手掛けることになったのだろうか?
「かき氷作りをスタートしたのは、コロナ禍でレストランでのアルコールが提供できなくなったことがきっかけでした。オーナーの提案で初めは戸惑いましたが、勉強がてら食べに行った湯島(東京都文京区)の『サカノウエカフェ』のふわふわのかき氷に感動したんですね。そこから僕なりの研究が始まりました」(竹中さん)
同店のかき氷には純氷を使用し、その日の気温と湿度に合わせ、冷蔵庫で解凍しているんだとか。口にいれた瞬間、ふわりと溶けるぎりぎりの温度を見極めて氷の温度と解凍時間を調整。さらにエアリーな食感を引き出すため、削りの氷の厚さを変えたり、毎日刃を新しく変えたりして削りには特に気を使っているそう。