シャリだけで酒が飲める。世田谷代田『鮨処 まる』
「ご飯でお酒を飲みたくなるのは寿司だけでしょう?」と店主の柴木さん。この道40年の熟練の指使いから1貫ずつ供される握りは、まさにその言葉通りの味わいだった。
味を支えるのが米酢と赤酢を同割で使ったシャリ。口に含めば酸味はシャープでありつつも、後からじわじわと舌を包むようなまろやかさもあり、米粒に沁みた塩もやや強めだ。
川崎の市場に足を運び、できる限り天然物で揃えた上質なネタと合わせれば、個性ある人肌のシャリが脂の甘みや旨み、繊細な風味を鮮やかに立たせてくれるのだ。
こんな寿司には冷酒よりもおだやかに甘みが膨らむぬる燗がよく似合う。珠玉の握りでゆるゆる酒盃を傾ける、そんな粋な過ごし方もいいだろう。
「マグロだけで満足」をいただく。千石『真寿司』
マグロファーストな寿司屋である。なんてったって、おまかせ握りの最初に赤身、中トロ、大トロの3貫が出てくるのだ。味の良さを伝えるため一番に食べてもらうのだそう。
そのマグロを頬張ると大海を泳いでいた頃の活きが伝わってくるような力強い味わいで、後からなめらかさとコクが広がる。
なんでこんなにおいしいの!? と店主に聞くと、「できる仕事をしているだけ」とさらりと言う。が、たとえば中トロは筋がない背の真ん中を買い、カットの仕方や大きさ、寝かせ方などに仕事が光る。
仕入れ値的にも仕事量的にもコストがかかっている。それがこの値段なのは、旨いと思ってもらうことを何より優先しているから。町寿司の心意気、食べて知るべし。