江夏、夢の快投9連続奪三振
オールスターゲームにおいて、投手の名場面≒奪三振ショーともいえるわけだが、なかでも圧巻だったのが、規定の3イニングを投げて全打者を三振で抑える快投を見せた1971年第1戦(西宮球場)の江夏豊(阪神)だ。事前に9連続奪三振を予告し、意識して三振を狙ったという江夏は初回、有藤通世(ありとう・みちよ、ロッテ)、基満男(もとい・みつお、西鉄)、長池徳二(阪急)を全て空振りの三振で打ちとる。
つづく2回も江藤慎一(ロッテ)、土井正博(近鉄)、東田正義(西鉄)を三者三振で片付ける完璧な投球。そして3回は阪本敏三(阪急)、岡村浩二(阪急)と三振に斬り、9人目の加藤秀司(阪急)を迎える。
「追うな!」と叫んだ真意とは
この場面、1ボール1ストライクからの3球目に加藤がバックネット方向にファウルを打ち上げるのだが、江夏は捕手の田淵幸一(阪神)を「追うな!」と叫び、制止。つづく4球目、外角への直球で三振を奪取した。この時のことを江夏は次のように振り返っている。
「あのときのオレの心境はただもう“はよ終わってくれ! 早くこの緊迫感から逃れたい。終わらせたい!”という気持ちでいっぱいやった。そやからブチやんには、そんなファウルボールなんか追うな、早く座ってくれ。そして一刻もはやくオレの次の球を受けてくれ、と思ってたんや」(『熱闘!プロ野球三十番勝負』スポーツグラフィックナンバー編 文春文庫)。
夢の快投達成に燃える江夏の思いが伝わってくるエピソードだ。江夏は前年のオールスターゲームを5連続奪三振で終えており、この時の9連続奪三振と第3戦の先頭打者から奪った三振を合わせた15連続奪三振はオールスターゲームの記録となっている。また江夏は広島に移籍しリリーフに転向した、1980年第3戦でも1点差の9回二死満塁からマウンドに上がり、三連続三振を奪い見事な火消しを見せている。江夏は奪三振ショーでオールスターゲームを最もわかせた投手だろう。