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「10連続」の新記録を狙い、タイ記録を逃した怪物・江川

3イニング限定登板のオールスターゲームでは9連続奪三振はこれ以上ない大記録ということになるが、その記録を超える裏ワザを試みて、タイ記録を逃したのが1984年第3戦(ナゴヤ球場)の江川卓(巨人)だ。

4回セの2番手として登板した江川は、まず福本豊(阪急)から三振を奪うと、簑田浩二(阪急)、ブーマー(阪急)と三者三振に斬ってとった。つづく5回は栗橋茂(近鉄)、落合博満(ロッテ)、石毛宏典(西武)から全て空振り三振で6連続。第1戦でも1イニング投げている江川はこの回で降板予定だったが、セを率いる巨人、王貞治監督が続投を指示する。

6回は伊東勤(西武)、代打のクルーズ(日本ハム)と三振にとり8連続。大記録達成まではあと一人。深呼吸をひとつして打席に入った大石大二郎(近鉄)に江川はストレートを続けて2球投げ込み、簡単に追い込む。

「ナゴヤ球場」にかわって、現在の中日ドラゴンズの本拠地「バンテリンドーム ナゴヤ」 yu_photo – stock.adobe.com

大石大二郎にカーブをあてられた

この時、江川はひらめいた。

「8つ取って、9人目のバッター大石大二郎くんをツーナッシングに追い込んだ瞬間に思い浮かんだのは、『江夏に次いで2人目』という新聞一面の見出し。だから、(並ぶのではなく)絶対に抜こうって思ったんですよ。ワンバウンドのカーブで振り逃げさせて、10連続を狙おうと」(『オールスター連続奪三振 「9連続」江夏を抜こうとした「8連続」江川の本音』週刊ポスト2023年6月9・16日号)

3球目に投げたのは外角に逃げていくカーブ。狙い通り大石は手を出してきたが、ボールはワンバウンドせず、バットの先端にあてられ、二塁ゴロとなった。この日、走っていたストレートではなく、カーブを投げてあてられてしまうというのが江川らしい。江夏の9連続奪三振を振り返るとき、併せて語られるオールスターゲーム史上に残る快記録だ。

令和のドクターK、奪三振ショーは見られるか

オールスターゲームで、江夏、江川のような奪三振ショーの再現を期待される投手といえば、佐々木朗希(ロッテ)だっただろう。公式戦で13連続奪三振、1試合19奪三振など数々の三振に関する日本記録を持っているほか、江川が未遂に終わった1回4奪三振も記録済みだ。

しかし今回のオールスターゲームでは3年連続のファン投票選出はならず、選手間投票も2番手。シーズン中盤からのコンディション不良もあってか監督推薦で選ばれることもなかった。

となると今回の出場選手で注目したいのは、セでは栗林良吏(広島)、パでは今井達也(西武)だ。栗林は今シーズンここまで34回1/3を投げ奪三振46と投球回を超える三振を奪っており、ここ一番で狙って三振がとれるのが強み。抑え投手ということもあり、多くても1イニングの登板となりそうなので9連続三振は難しいかもしれない。ただ、同じ広島の抑えの先輩である江夏のように3連続三振でセーブを記録するようなことがあれば、十分MVP候補になるだろう。

今井は奪三振数113個でパのトップ、両リーグで唯一三桁にのせている。本人も監督推薦選出記者会見で「全員三振を獲っていくっていう姿勢はもちろんシーズン中と変わらず披露したい」と宣言し、やる気十分。前半戦、味方打線の援護がなく勝ち星が伸びなかったうっぷん晴らしも込めた奪三振ショーを期待したい。

今年こそは久々に投手が躍動するオールスターゲームを見ることができるのか。もし投手がMVPを獲得すれば、2015年第1戦、藤浪晋太郎(阪神)以来、9年ぶりのことになる。

(※2024年のチーム成績、個人成績はいずれも7月17日現在)

神宮球場周辺 Photo by Adobe Stock

石川哲也(いしかわ・てつや)
1977年、神奈川県横須賀市出身。野球を中心にスポーツの歴史や記録に関する取材、執筆をライフワークとする「文化系」スポーツライター。

※トップ画像は、「エスコンフィールドHOKKAIDO」tkyszk – stock.adobe.com 

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石川哲也
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