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テレビに出過ぎたせいで周囲の目が気になる

ここで話は再び温泉に戻る。

過日、締切の合間を縫って件(くだん)の温泉に行った。折しも休日の午後ということで、クアハウスはたいそう混んでいた。

このところ、テレビ出演や雑誌のグラビア、宣伝広告等で、ずいぶんと顔が売れてしまっている。町なかでジロジロと注目されるぐらいならべつだんかまわないのだが、クアハウスの中というのは、そうと気付かれればけっこう恥ずかしいものがある。私は出たがりのわりにはシャイなので、混雑しているときにはなるたけタオルで顔を隠すようにし、湯船に浸(つか)れば壁を向いている。

とりわけその日の混みようは尋常ではなく、芋(いも)を洗うような大浴場に入ってからは、終始タオルでヒゲから下を隠し続けておらねばならなかった。

で、少々手順をまちがえたのである。

まずまっさきに髪を洗わねばならなかったのであるが、それを忘れた。かつてグラビア撮影中ににわか雨に降られ、シラガ染めが黒々と顔面を流れてカメラマンを仰天させたことがあった。しかし今回は多忙にかまけて数日間フロにも入っておらず、その間シラガ染めは上塗りに上塗りを重ねていたがために、かつてカメラマンを仰天させた程度の生やさしい染まり方ではなかったのである。

湯船に浸っている間、私は他人の目ばかりが気になって、手順をたがえたことなどすっかり忘れていた。

周囲の視線を感じた。数日前に、よせばいいのに調子に乗って、「たけしのTVタックル」に出演してしまい、アップの顔を国民に知らしめていた。

衆視に耐えきれず、シャイなくせに出たがりの性格を深く省(かえり)みつつ、口元をタオルで押さえて秋雨のそぼ降る露天風呂へと出た。ところが、折からの雨と湯煙りとで視界は朦朧(もうろう)としておるにもかかわらず、やはり人々は物珍しげに私を注視するのである。のみならず、子供らは私の顔を岩陰から覗き見て、キャッキャッと笑うのであった。

たけしと一緒にテレビに出た人間がそんなに珍しいか。舛添先生と同工異曲の顔を並べたことが、そんなに面白いか。(筆者注・同工異曲=細工・手ぎわは同じであるが、とらえ方・趣が違うこと。また、違っているようで実は大体同じようなこと。以上「岩波国語辞典」による)

憧れ続けていた温泉、しかも神の福音のごとくに、自宅から目と鼻の先に湧き出た温泉に入る私を、人はなにゆえ笑うのであろう。

露天風呂の雨に打たれながら、私は世の不条理を呪い、シクシクと泣いた。

そして須臾(しゅゆ)ののち、固く決心したのである。天に恥じることは何ひとつしてはいないのだ。珍しがられようが笑われようが、父母から授かったこの顔を人目から隠したりするのはやめよう。どうせ隠すのならキンタマを隠そうと私は思った。

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サウナ・ルームに入った瞬間、周囲は爆笑に包まれた...
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おとなの週末Web編集部 今井
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