個人の飲食店が軒を連ねる東京・西荻窪に、日本に居ながら台湾旅行気分を味わえる話題のお店があるのをご存知だろうか。JR中央線西荻窪駅の南口からわずか徒歩1分。2023年にオープンした『新世界 檳榔(びんろう)の夜 TOKYO』のことだ。同店は福岡で人気を誇る老舗台湾酒場『新世界 檳榔の夜』から独立したオーナーが手がけるお店。台湾から取り寄せた真っ赤な照明や、ネオンサインが空間を彩り、異国情緒あふれるディープな雰囲気がなんともたまらない。看板メニューの水餃子がとにかく旨いと聞いて、早速昼からおじゃましてきた。
“本家”は福岡で2003年オープン
1990年代、東京ではエスニックブームが巻き起こり、それに伴い第1次台湾料理ブームが訪れていた。一方、『新世界 檳榔の夜』の本店がある福岡では、当時「台湾料理店」と名乗る店は殆どなかったそうだ。オーナーの西山洋輔さんは「福岡の人にもおいしい台湾料理を食べてもらいたい」と一念発起し、2003年に「台湾の飲み屋街の路地裏にある屋台」をテーマに店を立ち上げた。その後同店はじわじわと人気を集め、福岡における台湾料理ブームの火付け役となる。
西荻窪でオーナーを務める木村健治さんは、サラリーマン出身だ。友人の西山さんが営む『新世界 檳榔の夜』に通ううち、本場台湾の屋台を思わせる店の雰囲気に魅了されたそうだ。「東京にもこの店の文化を浸透させたい」という西山さんの想いを引き継ぎ、福岡で1年修行を積んだ後、2023年10月、ここ西荻窪に新店を開店した。店では毎日仕込みの段階から料理も担っている。
看板からカウンターまで!レトロな雰囲気の店内はDIY仕上げ
「台湾気分に浸れる福岡の『新世界 檳榔の夜』が好きだったので、この店もレンガ造りにし、現地のレトロな雰囲気を表現しました。店内の殆どが僕らの手づくりで、壁に敷き詰めた赤レンガも看板も、タイルのカウンター席もすべてDIYです」と、木村さん。本店には金魚の水槽が設置されているが、西荻窪では水槽に見立てた水色のタイルを敷き詰めたカウンターの上に浮遊する金魚の絵が施されているところも実にユニークだ。
壁には台湾のマッチ箱のパッケージデザインを再現したアートが点在しているが、こちらも知り合いが手描きで仕上げたものだという。一見派手ともいえる店内にどこか温かみのある空気が流れているのは、どれもこれも手づくりのもので溢れていたからなのだと気づかされた。
3度も流行の波が訪れた、日本における台湾料理とは?
台湾料理といえば、バブル崩壊後の1992年にタピオカココナッツミルクが、1995年に大根餅やビーフンなどの小皿料理が流行し、2008年になるとタピオカミルクティーブランドが続々と日本進出したことで第2次ブームが訪れた。2020~2021年には台湾の朝食や屋台グルメを扱う店が人気を集め、第3次ブームが訪れたことは記憶に新しいが、最近ではすっかり日本人の舌にも馴染み、定番料理になってきた気配もある。