やがて、筏が見えてきたので海辺のほうに坂をおりていってみました。天然石の堤防から海をのぞいてみると、青々としたきれいな海でした。ホンダワラやアオサなど海藻もよくしげっています。大きなボラの大群が、石垣のすきまにかくれている虫やエビなどをつっついているのがよく見えました。
タコをとるカゴが、山のように積み上げてありました。ここはタコ漁が盛んなのです。わたしの家の前でタコがいっぱいとれたのは、いまから40年も前だったのを思い出していました。
タコがいるということは、タコのえさになる、カニや貝が多いということです。それは、植物プランクトンが多いことにもつながっていきます。
「バルに行ってみれば、なにか話が聞けるかもしれませんね」
と、原田さんがいいました。スペインには、どんな田舎にいってもバルがあるそうです。軽い食事が出てコーヒーが飲め、お酒もある、みんなのいこいの場です。
店に入ると、いきなり東洋人がきたので、みんなびっくりしています。
「めったに東洋人は来ないはずです。まして、日本人の漁師さんなんて、はじめてでしょう」
と、原田さんが笑っていいました。
うまそうに赤ワインを飲んでいる、いかにも人がよさそうな50歳ぐらいの人に話しかけてみました。すると、カキを養殖しているというのです。
「どんな形のカキですか」
とたずねると、指で丸をつくりました。丸いカキとは、ヨーロッパヒラガキ(フランスガキ)のことです。以前、日本製の養殖カゴを使っていたそうで、すこしは日本のことも知っているようです。スペインの養殖の方法などを聞かせてもらっていました。
…つづく「「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」」では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第6回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。一方、子どもたちを海に招き、体験学習を行っている。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。