異業種交流の大切さ
オーストラリアの旅はわたしに地球を俯瞰する目を与えてくれました。
それもこれも、松永先生と出会い、植物が生長するのに最も大切な成分は、鉄であることを教えてもらっていたからです。そして、日本製鉄の社員と出会い、オーストラリアの鉄鉱山への旅が実現したのです。やはり人間はときどき、異業種の人と交流することが大切なんだな、と学ばされました。
今、人間は地球温暖化のことで右往左往していますが、植物と鉄との関係を知っていれば、こんな騒ぎにはなっていなかったはずです。何回も言いますが、人類は植物の光合成の枠の中で生活してゆかねば未来はないのです。偉い学者の先生は、
「カキ漁師のくせに根拠のないことを言うな」
と言うかもしれません。
でも、植物プランクトンをえさにするカキを養殖している漁民でなければ、見えない世界があるのです。オーストラリアの世界遺産シャーク湾や、世界最大の鉄鉱石鉱山ハマスレー鉱山に行っても、カキ漁師にしか見えない世界があるのです。
松永先生の説明を思い出していました。北海道の函館湾に流入する久根別川河口の海は、1立方メートルあたり1年間に1キログラムのプランクトンを生産する力があります。これは熱帯雨林と同じぐらいの力だというのです。
皆さんは南アメリカにあるアマゾンの熱帯雨林を知っていますね。地球の肺などといわれています。というのは、この森林は光合成によって、地球の大気の21パーセントにあたる酸素を放出しているからです。
でも、久根別川河口の汽水域は、植物プランクトンを生産する力が、同じ面積(単位面積)あたりで、アマゾンの熱帯雨林と同じぐらいだというのです。森林の栄養分が川から海に流れ込んでいるからです。
…つづく連載18回「8メートルの波が押し寄せて…最大クラスの「巨大地震」で、多くの人が誤解している地震の「本当の怖さ」【カキじいさん、世界へ行く!】」では、 東日本大震災のカキ復興の手助けをしてくれたルイ・ヴィトン家を訪ねる旅をふり返ります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第17回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。
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