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太平洋戦争当時は「世界有数の埋蔵量」

「カキじいさん、いよいよ鉄ですよ。ここからは鉄じいさんと呼ばせていただきますよ」

と、写真家の大竹英洋君は笑いながら話しかけてきます。そして、スペリオル湖を一望する高台に車を走らせました。

「あれを見てください」

と指さしました。湖岸のふ頭まで鉄道がのびていて、貨物列車が並んでいます。長い貨車の横には、赤茶色の小石のようなものが山になっています。大竹君は、

「鉄じいさん、鉄鉱石ですよ。やっと鉄にめぐりあいましたね」

と言いました。

メサビ鉄山の鉄鉱石がここからシカゴ、デトロイトを中心に五大湖周辺の工業地帯に運ばれていきます。もっとも鉄鉱石が掘られたのは、太平洋戦争の時だったそうです。当時、世界有数の埋蔵量を誇っていました。

戦争前、日本の軍人がここに来て、この光景を見ていたら、歴史は変わっていたかもしれませんね。石油も、鉄鉱石も乏しい日本がどうしてこんな国と戦争をしたのか理解できませんね。

一橋大学経済学部出身の大竹君が説明してくれました。理系、文系両方に知識のあるナイスガイドです。大きな地図を出して、五大湖の地理的位置を確かめました。

五大湖とは、スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖です。もっとも大きいのはスペリオル湖で、世界一の湖です。水質もそのまま飲めるほどきれいで、サウジアラビアから、

「タンカーを乗り入れるから、水を売ってほしい」

と言われていたそうです。

「えっ、海とつながっているの」

と、地図を見ますと、五大湖は運河でつながれていて、オンタリオ湖からセントローレンス川を通じて、大西洋に注いでいるのです。

大西洋への出口は、カナダのニューファンドランド・ラブラドル州。うちの犬「ハナ」はラブラドル犬です。こんな寒いところで生まれたのか、とびっくりです。その晩は大竹君の知り合いの、ミネソタ大学の教授の別荘に泊めてもらいました。なんと教授はわたしの書いた『森は海の恋人』(文春文庫)の本を読んでいたのです。

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高木 香織
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