女将やマダムのいる店は、何かが違う。「女将」ってなんだろう?その姿に迫る『おとなの週末』連載「女将のいる場所」を、Webでもお届けします。第11回目の今回は、東京・六本木にある2003年開業の質実剛健イタリアン『オステリアナカムラ』の女将、中村幸子さんです。
育ち生まれは南青山、2003年に開業
東京・南青山で生まれ育った。渋谷のエレクトーン教室に通い、ベルコモンズの屋上でテニス。革ジャンを着て400CCのバイクを飛ばす大人になると、中村幸子さんはイタリア料理人の直行さんと出会う。日雇い労働者の街で素泊まり宿を営む彼の実家にも、ひとりで訪れる度胸、いや愛情。23歳での結婚は「単に好きだから」だ。
毎晩飲み歩くバブル期のOL生活は楽しかったけれど、夜に働く夫とのすれ違いを解消すべく、販売業へ転職。彼が独立を決めた時、自分は店に立つことを覚悟した。
六本木ヒルズが開業した2003年、裏路地に灯りを点した『オステリアナカムラ』である。8坪の空間はいかにも旨い匂いに満ち、黒板には丁寧な筆致のメニュー。
幸子さんは客席をすり抜けて料理を運び、下げた皿を片っ端から洗い、注文を迷う人には「今日なら仔羊、ぜひ」と背中をひと押し。彼女を心臓に、店じゅうが鼓動した。