女将やマダムのいる店は、何かが違う。「女将」ってなんだろう?その姿に迫る『おとなの週末』連載「女将のいる場所」を、Webでもお届けします。第10回目の今回は、東京・三軒茶屋にある2018年開業のタコス店『ロス・タコス・アスーレス』の女将、阿部莉香さんです。
『ロス・タコス・アスーレス』の女将・阿部莉香さん
待ち合わせがどうして、スーパーマーケットの前?商社を辞めた阿部莉香さんは、リフレッシュに訪れたメキシコで首を傾げた。現れた友人の友人、日本語堪能なマルコ・ガルシアさんが街を案内してくれたのだが、行き先はこだわりのスーパーにオーガニック店にアイスクリーム店、つまりは彼の食のベストヒットツアーだった。
「車社会なのに徒歩だし、日照りだし、説明も熱いし。衝撃的でしたけど、どれも結果が想像を超えたんですよ」
日本に留学経験を持つマルコさんは、伝統を敬う和食文化に触発されて、自国のタコス文化を高めようとしていた人。在来種や古い製法を見直しながら、季節感を映す新しいタコスの表現。莉香さんは彼の活動を手伝うことになり、気づけば毎日、一緒にタコスを作っていた。
2年後、莉香さんの帰国を機に、マルコさんも日本へ。彼女はスタートアップの企業に就職したものの、どこかしっくりこない。隣を見れば、彼もまたタコス店開業に奔走しながら、外国籍で物件が借りられず疲弊している。だったら共同経営者となって、お店という起業をしよう。
「今はまだ誰にも見えない景色が彼には見えていて、アイデアが実現すればきっと結果が出せる。そんな人が諦めなくてはいけないとしたら、それは悲しい世の中です」