創業時の店名の名残
それは“ザ”を連呼したくなる王道の姿だ。琥珀色の澄んだスープにチャーシュー、メンマ、長ねぎ、彩りの青菜。往年の映画女優のような控え目な美しさに胸の奥がきゅんと疼く。
ラーメン800円
鶏ガラベースのスープは生ショウガの風味が効いた味で、麺は中細。特別な食材を使うわけじゃない。だからこそ郷愁という薬味も加わって体にスッと染み入る。
「懐かしいおいしさですね」。そう伝えると、高橋さんはくしゃっと笑った。
「今は豪華なトッピングも多いし、逆にあっさりした味がいいんだろうね。お客さんも言うんです。『これこれ、こういう味が食べたかったんだよ』って」
ミルクホールの名は牛乳やかき氷、丼物などを出していた創業時の店名の名残だ。戦前は日本蕎麦屋で、空襲で焼け出され、蕎麦の材料が手に入らなかったため1945年に甘味と軽食の食堂を始めた。ラーメンもその頃から。
「当時は専門店もないし、ラーメンを食べるならうちのような食堂か町中華か日本蕎麦屋。神田は小さな会社もたくさんあったから社員食堂のように使う人もいましたね」。