阿智村の人気復活の立役者
実はこのナイトツアーの舞台となっている『ヘブンスそのはら』は、もともと夜は稼働していない一般的なスキー場だった。バブル崩壊後、20軒のホテルや旅館が集まる昼神温泉では、宿の稼働率が大きく落ち込んでいた。そんな状況下で、このスキー場を活用した観光に目をつけたのが、『阿智昼神観光局』の現在の事業推進部長、松下仁(ひとし)さんだった。
「僕はその当初、このエリアの温泉旅館の一スタッフでした。旅館を訪れる観光客に加え住人も減少する中で、この村を次世代に残せないかもしれないという危機感がありました。そこで、村に人が来る仕掛けを考えていたところ、このスキー場の山頂で満天の星空が見えるという話を小耳に挟みました。頼み込んで何人かで足を運んでみると、本当に息を呑むほど美しい星空が待っていました。その時の感動体験から星を村の観光資源にしようと決意したんです」と松下さん。2011年のことだ。
阿智村は、環境省が2006年に実施した「全国星空継続観測」で「星の観察に適していた場所」の第1位として認定された、お墨付きのエリアだったのだ。
2012年には初めての『天空の楽園 ナイトツアー』を開催。3年ほどかけて昼神温泉のコンテンツ作成と地域マネジメントを行う組織づくりに関わり、民間と行政が一つになった『阿智昼神観光局』が2016年に設立された。
ツアー初回の参加者は10人に満たず、2012年の観光客は6500人ほどだったが、口コミでの拡散やSNSを通した発信、ウェブでの広報戦略、企業とのコラボレーションなどが功を奏して、現在では村の人口の26倍となる16万人が訪れるほどのイベントにまで成長した。2年目の2013年は2万2000人、2014年は3万3000人、2015年は6万人と観光客数は右肩上がりに増えていった。
「これからは日本に限らず、世界中の方に星を見に阿智村へ訪れていただけたらと思っています。とはいえ、一過性のブームで終わらず、持続的に来ていただける状態が理想ですね。僕らがこうやって発信を続けることで、若い方たちに阿智村を好きになってもらい、星を見る文化を次世代に繋いでいってもらえたらうれしいです」