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寿退職のお祝いは「雌に魚をプレゼントするカワセミが飾られたデコレーションケーキ」

大学をご卒業された紀宮さまは、山階鳥類研究所に非常勤の研究助手として、週2回の勤務をされるようになった。新卒で就職されるのは、天皇家において初めてのことであった。皇族としてのご公務のかたわら、少しの報酬を受ける生活をご経験されたのである。

紀宮さまは、研究所に手作りのお弁当を持参し、お昼どきには同僚とともに楽しく歓談しながら食事を召し上がったという。

非常勤の研究助手として勤務された紀宮さまは、やがて非常勤研究員に昇進された。主な研究対象は、カワセミであった。カワセミは瑠璃色の羽根が光り「飛ぶ宝石」といわれるほどの美しい鳥である。

研究をすすめた紀宮さまは、『日本動物大百科 鳥類II(第4巻)』(平凡社)のカワセミの欄を執筆された。さらに、『山階鳥類研究所研究報告』と『山階鳥類学雑誌』に、「皇居と赤坂御用地におけるカワセミの繁殖状況」、「赤坂御用地鳥類調査」(1986年9月~2001年12月)と題する研究報告を共著で発表された。一般の人向けには『おもしろくてためになる鳥の雑学事典』(山階鳥類研究所著、日本実業出版社)にも、共同執筆者として参加されている。

やがて紀宮さまは黒田慶樹さんとご婚約され、ご結婚の準備のために大学卒業から13年間勤務した山階鳥類研究所を退職されることとなった。勤務最後の月、50人の職員たちが集まって紀宮さまの送別会を開いてくれた。

送別会で出されたのは、イチゴでデコレーションされた50センチメートル四方もあるケーキであった。ケーキの中央には、紀宮さまが長年研究されてきたカワセミのモチーフが飾られていた。ホワイトチョコレートの上に雄雌2羽のカワセミが描かれている。カワセミの雄が雌に魚をプレゼントする習性を表した、ほほえましい絵であった。

大きなデコレーションケーキは、職員みんなで切り分けて、紀宮さまとご一緒に召し上がった。カワセミの飾りは、紀宮さまが大切にお持ち帰りになった。

紀宮さまは、皇族としての最後のお誕生日に際し、家族についてこう語られている。
「特殊な立ち場にあって人生を過ごしたことは、恵まれていた面も困難であった面も両方があったと思いますが、温かい家庭の中で、純粋に『子ども』として過ごすことができ、多くの人々の支えを得られたことは、前の時代からは想像もつかないほど幸せなことであり、そのような中で生活できたことを深く感謝しております」

紀宮さまを大切に慈しまれた美智子さま、ご家族や関わった人々の愛を素直に受けとめられた紀宮さま。まわりの人々をあたたかい心で包み込むようなお二人であった。(連載「天皇家の食卓」第36回)

(C)JMPA

参考文献:『天皇皇后両陛下の80年 信頼の絆をひろげて』(宮内庁侍従職監修、毎日新聞社)、『天皇家の姫君たち 明治から平成・女性皇族の素顔』『美智子皇后の「いのちの旅」』(ともに渡辺みどり著、文春文庫)

※トップ画像は、(C)JMPA

文/高木香織
たかぎかおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

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