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女将やマダムのいる店は、何かが違う。「女将」ってなんだろう?その姿に迫る『おとなの週末』連載「女将のいる場所」を、Webでもお届けします。今回は、2022年に東京・江東区で開業したパン屋と、パンとお酒を楽しむパン呑みを提供するお店『たむらパン』の田村真紀子さんです。

「店」で繋がる“好き”

たむらパン、またの名をTam Lapin。夫の「ゆうじくん」が1975年生まれの卯年、彼女は翌年3月だけど、同級生だから。田村真紀子さんと裕二さんは北海道の大学で出会い、卒業と同時に結婚した。電子情報工学科を出た夫は情報通信会社に就職。観測船に乗って海洋学を修めた妻は、プールの監視員と、主婦を務める。

「丁寧な暮らしに憧れて、豆を煮たりしてましたよね」

『たむらパン』

ところが3年後、夫が突然会社を辞めたいと訴えた。激ヤセに気づかなかった。飲食関係で手に職を、と本人は言うけれど、料理人を父に持つ妻は「料理とケーキは無理」とみた。でもパンならば、もしかしたら、万が一。

推測通り、裕二さんは水を得た魚となり、『ザ・ウインザーホテル洞爺』へ。やがて東京のホテルから声がかかり揃って上京すると、真紀子さんは飲食店の厨房で働き始める。銀座の画材店『月光荘』が営む、アートと音楽を楽しむサロンでは料理を一手に引き受け、店長に就任。

バラバラだった好きなことが、「店」でつながると気がついた。故郷である千葉・御宿の観光客を迎える光景。父が食べさせてくれたおいしい料理と、母の趣味だった作家の器、日常にある美術。自分も店を持ちたいと話していると、隣で「一緒にやりたい感じ」を出す人がいた。

2人が揃って成り立つ『たむらパン』

「ゆうじくんに、好きなTシャツで働かせてあげたくて」

牡丹という名の土地に構えた『たむらパン』は、朝7時半にパンが並び(売り切れ御免)、15時からはパンをつまみに呑む酒場になる。壁の一面は、作家の作品を展示する小さなギャラリーだ。パン、パン呑み、アート。どれも彼女が観測して見つけた才能を、世の中へ知らせるための仕掛けである。

派手ではないが毎日でも食べたくなるパンは、妻がアイデアを出し夫が実現。15時を過ぎれば、それらは真紀子さんの惣菜とともにひと口ずつもりもり盛られて、酒肴の風貌に変わる。“呑む”ための滞在時間によって、壁の作品はよりゆっくりと鑑賞される。

「人知れず輝く小さな光。どうやら今回の人生は、そんなこじらせたちをおもしろがり添い遂げる星のようです」

酒場のお客からこぼれる「おいしい」の声に、生地を仕込むTシャツが笑っていることを、妻は知っている。

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『たむらパン』は2022年開業
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おとなの週末編集部
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