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「酢」は、世界最古の発酵調味料のひとつとされるのをご存知ですか?造り方はさまざまありまして、数時間で完成する工業製品から、じっくり丁寧に時間をかけて醸(かも)して寝かせる造りまで、いろいろ。中でもこだわりの酢を中心に蔵ルポから各種製品までご紹介します。今回は後編です。

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銀行員からお酢造りそして清流と出合う

山梨県都留(つる)市にある『戸塚醸造店』の代表、戸塚治夫さんがお酢造りに携わり始めたのは30年前から。実はもともと金融機関に勤めていたのだそう。あるとき取引先であった『青苔寺(せいたいじ)米酢工場』(山梨県上野原)の親方に声を掛けられ、休日に蔵の仕事を手伝うことに。しかし力仕事も多く、高齢の親方は廃業を考えていた。

そこで、醸造の奥深さに魅了され始めていた戸塚さんは「日本に数少ない昔ながらの造り方は、無形文化財と同じ」と後を継ぐことを決めたという。修業期間を経て2005年に創業すると、「もっとおいしく造るには――」と勉強を始めた戸塚さん。

「お酢造りには教本もないし、酒蔵のように意見交換ができるような組合もないので最初は本当に大変でした。おまけに発酵の状態は常に変化するから、『あれ?』と思ったときにはすでに手遅れになっていたりもするんです。お酢の発酵時期には、甕(かめ)の隣に寝泊まりした時期もあるほど」と言いながらも、楽しくて仕方がないという表情を浮かべていた。時には醸造の専門家に話を聞きながら一層丁寧に造り始めたところ、味わいも格段によくなっていったという。

体に澄み渡るピュアの味わいは富士伏流水の賜物

「心の酢」の字は戸塚さんによるもの

ところが災害に見舞われたこともあった。東日本大震災で甕が割れ、翌年は豪雪で発酵室の屋根が落ち、一年がかりで造った酢が地面に吸い込まれたのだ。それでも戸塚さんはめげなかった。「まだ甕に残っている種酢があるからお酢は造れる」と、移転先を探し、もとは豆腐工場だった場所を見つけ直談。

その行動力で掴んだ現在の場所は、富士山の伏流水が豊富に手に入る場所だった。長い間地下でろ過された、ミネラルをたっぷり含んだ軟水がこんこんと湧き出ている。すぐそばの湧水地の水は、口にするとスーッと広がり「心の酢」にも通じるピュアさだった。

近所の湧水地では一年中約12度の水が湧き出ている

戸塚さんは「最近は甕に住み着いた菌もだいぶ安定してきました。これからもお酢造りを続けたいですし、いつか、醸造を学びに学生に戻ってもみたい」と尽きることのない探求心ものぞかせていた。

菌という目に見えない存在に向き合い生まれた「心の酢」には、戸塚さんの情熱と自然の力が詰まっている。その一滴からは、この夏を走り切る元気までももらえそうな気がした。

戸塚治夫さんと紀子さん。ほぼすべての作業をご夫婦ふたりで行なっている
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サッと和えるだけ!食欲増進メニュー
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『おとなの週末』編集部
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