旬の黒鯛を使ったポワレをトマト風味のバターソースで
主厨が最後に浩宮さまと雅子さまにお出ししたコース料理をご紹介しよう。
【シャンパンと相性のよいコース料理】
前菜「皮ハギと肝のミルフィーユ」
魚「黒鯛のポワレ トマト風味バターソース」
肉「仔羊のロースト はちみつ風味」
デザート「チョコレートとクリームのムース」
黒鯛は、高級魚として知られる鯛よりも手頃な価格で手に入る。ご自分たちの食事にはお金をかけない、浩宮さまと雅子さまらしいご選択だったろう。透明感のある白身で、熱を通しても硬くならないおいしい魚である。おいしく食べられる旬の季節は、秋ごろから初春まで。まさに食材としてちょうどよい時期でもあった。
黒鯛は釣り人にも人気の魚で、関西以西ではチヌ、北陸ではカワダイ、関東では手のひらサイズのものはチンチンと呼ばれ、成長してカイズから黒鯛と呼び名が変わる。性別のはっきりしない時期や両性魚の時期を経て、成長すると一部を除いてメスに性転換する魚としても知られている。
コースはやさしい味わいの料理が並ぶ。シャンパンを味わいながら、さぞお二人の会話も弾んだことだろう。
起立して、ていねいに長年の労をねぎらう浩宮さまと雅子さま
コース料理を召し上がられた浩宮さまと雅子さまは、主厨をお部屋に呼ばれた。主厨が部屋に入ると、お二人は、ちょうど食後のコーヒーを飲まれていたところだった。お二人は椅子から立ち上がり、主厨のほうに向き直っておっしゃった。
「長い間、ありがとうございました」と、ていねいにお言葉をかける浩宮さま。
ついで雅子さまが、「私の料理を手伝っていただいたり、教えていただいたり、いろいろご迷惑をおかけしました。どうもありがとうございました」とお礼の言葉を添えられた。
職を離れる人にとって、最後に腕を振るえる機会を与えられたこと、そしてあたたかなねぎらいの言葉を賜ったことは、何ものにも代えがたいはなむけであった。それまでの苦労がいっぺんに報われたことは、想像に難くない。お相手の気持ちを思いやるお心を持った、浩宮さまと雅子さまであった。(連載「天皇家の食卓」第46回)
参考文献:『殿下の料理番 皇太子ご夫妻にお仕えして』(渡辺誠著、小学館文庫)
※トップ画像は、(C)JMPA
文/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。





