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白鳥橋の都電遺構に出会える「都電カフェ」

東京さくらトラム〔都電荒川線〕の終点、三ノ輪橋停留場のすぐ目の前にある大正時代に創業した歴史ある商店街「ジョイフル三の輪(三の輪銀座商店街振興組合)」。東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅からも徒歩5~6分のところにある商店街だ。この商店街のなかに、白鳥橋の都電遺構を展示するカフェがあるのだが、その前に寄り道を。

商店街の入口のそばには、都電荒川線の前身となる王子電気軌道が建設した「三ノ輪王電ビル」が、98年の時を経た今もなお健在なのはご存じだろうか。1927(昭和2)年に完成したこのビルは、所有者こそ代わっているが、当時の姿を今にとどめる貴重な建築物だ。ビルそのものは、日光街道に面して建てられており、その裏側は都電の三ノ輪橋停留場の方を向いている。

停留場から延びる道の正面に建つビルは、日光街道へ突き抜けられるように「ぽっかりと口」を開けている。人の通行を目的としたにしては、天井が高すぎるくらいの広い空間が保たれている。ちょうど都電が入りそうな大きさなのが気になる。もしかしたら、この空間に当時の王電(王子電気軌道の略)の線路を引き込んで、停留場としていわゆる駅ビルのようにしたかったのではないかと、思うばかりだ。

都電荒川線の終点「三ノ輪橋停留場」越しに見るジョイフル三の輪〔商店街〕アーケードの入口(右後方の青い屋根)。さらにその右に建つ中層階の白い建物は、旧・三ノ輪王電ビルだ=2025年12月11日、荒川区南千住
都電三ノ輪橋停留場から日光街道(国道4号線)へと抜ける道に建てられている旧・三ノ輪王電ビル。ぽっかりと空いた空間は、都電の電車がすっぽりと収まりそうな気配だ=2025年12月11日、荒川区南千住
三ノ輪橋駅そばの日光街道(国道4号線)沿いに建つ旧・三ノ輪王電ビル。「王電」とは都電荒川線の前身となる「王」子「電」気軌道の略=2025年12月11日、荒川区南千住

さてさて、話を戻そう。ジョイフル三の輪商店街を入ってすぐのところに、「都電」をモチーフにしたカフェがあるのだが、その店舗の建物には「都電屋」と書かれた看板が掲げられている。店舗の入口左手には、都電荒川線の前身となる「王子電気軌道」の沿線案内図と、同線を題材とした鉄道模型のジオラマが展示されており、目を奪われてしまった。沿線案内図には、旧・三ノ輪王電ビルもしっかりと描かれていた。

店内に入ると、ところ狭しと都電に関連した鉄道部品や模型をはじめ、国鉄に関連するものも飾られていた。カウンターの上には、ここにも都電を題材としたジオラマが展示されている。よほど都電好きの方が営まれているに違いないと、オーナーらしき方にお話を伺った。その方は元オーナーとのことで、現在は別の方に譲られているが、店内に展示してある鉄道関連品はすべて元オーナーのもので、店名もそのままに営業を続けているとのことだった。表の看板が「都電屋」となっていたのだが、これは店舗の2階がホテルになっており、そのホテルの名が「都電屋」で、その看板なのだという。

元オーナーの方は”大の鉄道愛好家”で、当初は神田(千代田区)にあった交通博物館の目の前で、鉄道サロンを営むことを目論んでいたそうだ。しかし実現には至らなかった。その夢をあきらめきれず、ようやく2019(令和元)年5月になり現在の地に開店させたという。店名は、店舗が都電荒川線の三ノ輪橋停留所の目と鼻の先にあることから「都電カフェ」と名付けた。この「都電」という名称の使用については、東京都交通局にも確認して”お墨付き”を得ているそうだ。

店内の奥には、なんと鉄道車両で使用していた座席をそのままに用いたテーブル席があった。振り返ってカウンターの下を見ると、そこには「白鳥橋の都電遺構」で掘り起こされた60cmほどに切断されたレールと石畳(茨城県産の笠間石)の一部とともに、この橋を渡っていた都電39系統を示す系統板が一緒に展示されていた。このほか、店内には都電の境界柵として使用していた珍しい明治時代に製造された「段レール」や、千代田区のお茶の水橋でも発見された都電遺構「戦前の都電レール」をスライスしたものが、この白鳥橋のレールとともに展示されている。

カフェのメニューには、都電と名の付く「都電屋パフェ(800円)」、「都電屋スムージー(600円)」のほか、「ご当地・三ノ輪バーガー(1200円)」など、心躍らされるネーミングのものが並んでいた。なかでも「三ノ輪バーガー」は、ジョイフル三の輪商店街としてご当地物を作ろうではないかと、商店主が集まって各店舗ごとにオリジナルメニューを提供することになり、ここ都電カフェでは人気のバーガーをターゲットにしたそうだ。

〔店舗情報〕「都電カフェ」、住所/東京都荒川区南千住1-15-16、休業日/不定休(週に1日だけランダムにお休みします)および年末年始、営業時間/10時~18時30分、ただし平日の不特定日に限り~16時まで。なお、文中に記載している価格は取材時のものです。

ところで、三ノ輪橋停留場のある荒川区には「三ノ輪」という地名(住居表示)はないそうで、東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅がある台東区には「三ノ輪」という地名が存在するのだとか。そして商店街の名は「三の輪」。記憶に残る街との出会いだった。

ジョイフル三の輪(商店街)を入ってすぐのところにある「都電カフェ(都電屋)」=2025年12月11日、荒川区南千住
都電カフェの入口に展示される都電荒川線の前身となる「王子電気軌道」の沿線案内図と同線の鉄道模型ジオラマ=2025年12月11日、荒川区南千住
都電カフェの店内。手前がカウンター席で、奥がテーブル席になっている=2025年12月11日、荒川区南千住
入口を入ると目の前には、都電の模型や鉄道関連の部品がお出迎えしてくれる=2025年12月11日、荒川区南千住
店内の奥にあるテーブル席。一部の席では鉄道車両で使用していた本物の座席が使われていた=2025年12月11日、荒川区南千住
カウンター下のスペースに展示される白鳥橋の都電遺構〔レールと石畳の一部〕と、この橋を通っていた都電39系統の系統版など=2025年12月11日、荒川区南千住
都電の古レールを並べた展示。右から明治時代に製造された段レール、白鳥橋の溝付きレール、お茶の水橋の溝付きレール=2025年12月11日、荒川区南千住
ジョイフル三の輪商店街のご当地ものを作ろうと考案された「三ノ輪バーガー」=写真提供/都電カフェ(藤田孝久)
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文・写真/工藤直通

くどう・なおみち。日本地方新聞協会特派写真記者。1970年、東京都生まれ。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物に関連した取材を重ねる。交通史、鉄道技術、歴史的建造物に造詣が深い。元・日本鉄道電気技術協会技術主幹、芝浦工業大学公開講座外部講師、日本写真家協会正会員、NPS会員、鉄道友の会会員。

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