しょぼくれたおじさんはいなかった
新潟港と佐渡の両津港を結ぶ定期船「おけさ丸」は想像よりずっと立派な船であった。吹き抜けのロビーや食堂、ゲームセンターや売店などがあり、小さな道の駅のようであった。私は百円玉を入れクレーンゲームを始めた。いいところでクレーンを止めたと思っても船がゆれるのでひとつも獲れない。
デッキにでると元気なカモメたちが寄って来る。霞んでいるのか佐渡島は見えない。途中、ペットと一緒に過ごせる座席もあったが、先ほどの柴犬はいなかった。自販機で毛布のチケットを買って、大部屋でゴロンと横になった。
ちなみに、小説『佐渡』の「私」はこの二等船室でも、「船室の隅に、死んだ振りして寝ころんで、私はつくづく後悔していた。何しに佐渡へ行くのだろう」とぼやいている。
船室には、そんなしょぼくれたおじさんはいなかった。かわりに自衛隊の屈強なお兄さんたち10人ほどがど真ん中に固まって胡坐をかいていた。後で知ったのだが佐渡には航空自衛隊の基地があるようだ。
東京23区よりデカい島
いつの間にか眠りに落ちていたが、「佐渡島が見えてきたよ」という声が周りから聞こえて身を起こした。首を伸ばして窓から見ると、カメラに全体が収まらないくらいすでに島に接近していた。美しい山並みもみえる。一番、高い峰は金北山だろうか。それにしてもデカい。佐渡島は沖縄本島に次いで2番目に大きく、東京23区の1.4倍の面積があるという。
両津港がぐんぐん近づいてきた。「港は、ごみごみして、少しも美しくない。寂しい、貧しい北国の港である」と小説では身も蓋もなく断罪された気の毒な港であるが、80年以上を経て、こんなに変わるのかと驚くほどターミナルも立派で大きな外国船も停泊していた。そしてついに「死ぬほど淋しい(かもしれない)」佐渡島に私は上陸した。(第2話につづく)
取材/白石あづさ






