月刊誌『おとなの週末』で好評連載中の「口福三昧(こうふくざんまい)」は、漫画家のラズウェル細木さんが、試行錯誤を繰り返しながら食を楽しむ様子を描いた漫画エッセイです。2021年6月には、連載をまとめた単行本『ラズウェル細木の漫画エッセイ グルメ宝島 美味しい食の探検へ』(講談社ビーシー/講談社)が刊行されました。単行本未収録の雑誌掲載作を『おとなの週末Web』で特別公開します。ラズウェルさんの“自作解説”とともに、お楽しみください。
鶏肉、カマボコ、シイタケ……「具材がつまらない」
「みなさま、茶碗蒸しはお好きですか?」「実は私、あまり好きではありません」
今回取り上げるのは、「自分で美味しいと思える茶碗蒸しを作る!」の回(『おとなの週末』2021年3月号掲載)。タイトル通り、自分好みの茶碗蒸しを作る過程が描かれています。
その作品の冒頭、ラズウェルさんは上記のように問いかけ、茶碗蒸しに対する関心度の低さを語ります。なぜ、そうなのか。作中には、説明がありますが、改めてご本人にうかがいますと……。
「茶碗蒸しを自宅で作ったのは、これが初めてです。好きというものじゃなかったので、作ろうという発想がなかったですね。特別嫌いでもなければ、好きでもない。あー、食べたいなという食べ物ではなかったということです」
もちろん食べたことはありますが、「好きだった時期がない」とのこと。もう少し、具体的な理由を聞いていきますと、「具材」に原因がありました。
茶碗蒸しの代表的な具材といえば、鶏肉、かまぼこ、シイタケ。ラズウェルさんにしてみれば、「なんかつまらない」というのです。
「卵と出汁だけという、オーソドックスなものはいいんです。好きではない具材が入ってるのが嫌だったんです」
それで、自分が好きなものを入れて作ってみたらどうだろうか、というのが、今回の作品を描く動機につながりました。
日本三大珍味を入れた「ゴージャス茶碗蒸し」
作品では、「コノワタ」「カラスミ」「塩ウニ」を入れた「ゴージャス茶碗蒸し」が、紹介されています。
「前に食べた料理屋でコノワタの入った茶碗蒸しが美味しかったので、その記憶があって。三大珍味を入れてみようかなと。自分が好きなものを入れたら美味しかったです」
茶碗蒸しの原型は、江戸時代の料理「たまごふわふわ」という説があるそうです。江戸後期の旅日記に、「袋井宿」の朝食で出たという記述があることから、静岡県袋井市の名物料理にもなっています。袋井市観光協会のホームページには、「材料は『卵』と『だし汁』だけのシンプルな料理ですが、『ふわっ』とした食感と風味豊かな味がお楽しみいただけます」とあります。
ラズウェルさんによると、卵と出汁だけの「シンプル茶碗蒸し」も、好感触。卵と出汁の割合については、いろいろなレシピを参考にして、割り出したそうです。
実際に作ってみて重要性を感じたのは、「漉す作業」。
「やっぱり口あたりの滑らかさが全然違います。ただ単に卵を固めただけじゃなく、漉すひと手間が料理なんだなと。漉すことが重要なプロセスだと思いました」
作品では、「酒肴としても最高だ」と杯を持つ描写があります。茶碗蒸しにあわせるお酒を訊ねると、「合わせるとしたら日本酒、お燗ですね。あんまり個性が強くないほうがいい。例えば、『獺祭』(だっさい)とかバランスのとれたお酒がいいですね」。
実は作品では、「三大珍味を超える旨さ」とラズウェルさんが絶賛する茶碗蒸しが最後に登場します。ぜひ、漫画でご確認ください。