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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。連載「音楽の達人“秘話”」のシンガー・ソングライター・南佳孝第4回は、「歌」に焦点を当てます。筆者が、南佳孝を名シンガーだと認識する理由とは―――。

会話の声量が小さいシンガーたち

数多くのミュージシャンと出逢い、インタビユーしてきた。そんな様々なタイプのミュージシャン達の中で、シンガーと呼ばれるタイプの人々は、普段から自分の声を本能的に守っている場合が多い。分かりやすく言うと、 インタビューしている間の会話の声量が小さいのだ。布施明、森進一、沢田研二、西城秀樹…、皆インタビューしたことがあるが、その会話の声量はテレビなどの出演時に比べて小さい。

布施明にインタビューした時、その訳を訊ねたことがあった。彼の答えは“意識して小声でしゃべっているのでなく、本能的に喉をふだんから守っているのだと思う”だった。

布施明が教えてくれた彼の歌の凄さにこんなエピソードがあった。

“テレビなどの歌番組で新曲を披露する時は、レコードの録音で歌うのより、必ず半音、キーを上げるんです。熱唱するというのかな。するとレコードの売上げが伸びるんですね。では何故、レコード録音時からキーを半音上げて歌わないのかと思うでしょう?ファンが買ってくるレコードというのは毎日、何度も聴いてくれます。そこで大熱唱していると聴き疲れちゃうんですね。ライヴだから熱唱する。ライヴで歌うのは1回きりだから、熱く歌うのが良いんです。これはぼく流の歌のマジックです”

カラオケのファンなら伝わると思うが、キーを半音上げるのがいかに難しいことか。それが出来たから布施明は“歌のプロ”だったのだ。

南佳孝の名盤の数々。中央上が、ライヴ・アルバム『1973.9.21 SHOW BOAT 素晴しき船出』で、左下が『摩天楼のヒロイン』

日本で10本の指に入る名シンガー

南佳孝は個人的には日本で10本の指に入る名シンガーだと思う。彼がひと度歌い出すとすぐに彼だけの歌の世界が広がる。音程が正確だとか、良い声だとかというのはプロでは当たり前のことで、いかに自分しか表現できない~歌えない世界を提示できるかが、プロとアマの差なのだ。

南佳孝と何度か逢った方なら分かるが、彼はいつも歌っていることに気付く。話している途中でも気分良くスキャットしているのだ。無数のシンガーをインタビューしてきたぼくだが、会話の途切れたふとした瞬間に歌っているシンガーと出逢ったのは南佳孝だけだ。彼は根っからの、天性の歌好きなのだ。そして守る必要がないほど、強靭な喉をしている。

“小さい頃から歌うことが好きだった。中学生の時の通学途中、下校の途中、とにかくいつも何か歌っていたね。ザ・ビートルズ、ナット・キング・コール、英語が分からない時はスキャットしていた。ミュージシャンになれるとは当時は思っていなかったけど、何か音楽の仕事がしたいと子供の頃から考えてはいたけどね”

南佳孝の名盤の数々。右下が「モンロー・ウォーク」を収録したアルバム『SPEAK LOW』
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後輩を大切にする頼れる先輩...
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岩田由記夫
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