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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。連載「音楽の達人“秘話”」のシンガー・ソングライター、井上陽水の第2回は、筆者がインタビュー時に盛り上がった話題に触れます。それは、「麻雀」です。

昭和63年秋、日産セフィーロのCMに出演

ぼくが初めて井上陽水と逢ったのは1986(昭和61)年のことだ。『歌う見人(ケンジン)』 と題されたカセットブックが発売され、そのプロモーションのためにインタビューを受けてくれた。このカセットブックには井上陽水が愛する風景、映画、女性、絵画、ポスターなどが絵巻状の本として付いてきた。カセットテープには「いっそセレナーデ」「飾りじゃないのよ涙は」など8曲が英語で歌われたヴァージョンが入っていた。

“何か新しい表現をしたかった。そこでCDとかレコードでないカセットブックというスタイルを提案されて、面白いなと思って作ったんです”と語っていた。

1986年当時も現在もそうだが井上陽水はあまりマスコミに登場しないスーパースターだ。 それでも1988(昭和63)年秋には日産自動車の新車「セフィーロ」のCMに楽曲「今夜、私に」を提供。何とテレビCMに自ら出演したのには、ぼくも少し驚いた。

“少し売れるようになってからアメリカに行ったんですね。イーグルスなどライヴを沢山観た。そういったアメリカでのライヴ体験で得たのは、自由にやっていいんだなということでした。彼ら~アメリカのミュージシャンは演奏の合い間にビールなどを飲んだり、観客もリラックスしてステージを楽しんでいた。それからのぼくのライヴはキチっとやるより、お客さんと一緒に楽しめるようにスタイルが変わったと思います”

実際、1970年代中期のライヴと1980年代以降のそれは、大きく変化したとぼくは思う。

井上陽水の名盤の数々。上段右から2番目が、日本初のミリオンセラー・アルバム『氷の世界』(1973年12月1日リリース)

「岩田さんの麻雀論は面白い」

井上陽水と逢って忘れられないのが、麻雀の話だ。ぼくは10代から麻雀が好きで、東京の赤坂、青山、六本木などでいわゆる“遊び人”をしていた時、ジャイアント馬場、大橋巨泉、井上順などといった有名人とも麻雀を打ったことがある。

井上陽水とのインタビューの途中から麻雀話になった。

“売れなかった頃、2年間くらい毎日、パチンコと麻雀をしていた時期もあったんです。麻雀というのは自分ひとりでなく4人で打つから楽しいんだと思いますね”

ここでは麻雀を知らない方もいるので省くが、かなりのコアトークになった。井上陽水は“岩田さんの麻雀論は面白い。今度、ぼくの家で遊びませんか?”

そう言って自宅の電話番号まで教えてくれた。

井上陽水の麻雀仲間には築紫哲也、黒鉄ヒロシなどといった人がいた。井上陽水と逢って割とすぐに黒鉄ヒロシさんをインタビューする機会を得た。その折、井上陽水の雀風について訊ねてみた。“とても美しく、力強く、 勝負師らしい麻雀を打つ”、そう黒鉄ヒロシは教えてくれた。

麻雀というゲームは4人で打つので4者4 様の性格が出る。ただ上がりを目指すのでなく、自分以外の3人の性格を読まないといけない。”とても美しく、力強く、勝負師らしい”

その言葉は何だか井上陽水という人の魅力を語っているように思えた。

井上陽水の名盤の数々。上段中央が、初アルバムの『断絶』(1972年5月1日発売)
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岩田由記夫
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