豪華列車の最高峰として知られ、世界の旅人を魅了したヨーロッパの長距離列車「オリエント急行」。実は、日本で“乗車”できるのをご存知だろうか。国内有数の温泉地・箱根の仙石原に、オリエント急行の車両を利用した複合型レストラン「Hakone Emoa Terrace by 温故知新」(箱根 エモアテラス)のことだ。「箱根 エモアテラス」は、2023 年3月にリニューアルされた箱根ラリック美術館に併設。ティーサロンやパティスリーもある中で、今回はティーサロン「オリエント急行」にフォーカスして魅力をお届けしたい。
セレブを魅了した豪華列車、ミステリーの傑作にも登場
ティータイムを満喫する前に、オリエント急行そのものについて、おさらいしよう。1883年から、フランス・パリ~トルコ・イスタンブール間を運行。1871年の普仏戦争終結から1914年の第1次世界大戦開戦までの平和な時代にパリを中心に美術や演劇などが栄えた「ベル・エポック」(美しい時代)、ヨーロッパの上流階級はオリエント急行に乗って旅をするのは当然のこととされていた。
室内装飾を手がけたのは、フランスの工芸家、ルネ・ラリック(1860~1945年)だ。オリエント急行は、ラリックによる格調高い内装に加え、質の高いサービスで、政治家や王侯貴族を魅了し、小説や映画の舞台にもなった。特に、1934年に発表されたアガサ・クリスティのミステリー小説「オリエント急行の殺人」が有名だ。映画「007/ロシアより愛をこめて」(1963年)を思い浮かべる人もいるだろう。
2度の世界大戦での中断を経て、1977年に、パリ~イスタンブール間の直通運転は終了。路線を縮小し、パリ~・オーストリア・ウィーン間、その後、フランス・ストラスブール~ウィーン間で運行されていたが、2009年を最後に廃止となった。
ルネ・ラリックによる150以上の幻想的な装飾
「箱根 エモアテラス」では、この贅を尽くした車両の一部が使われている。美術館のエントランスを通り抜け、実際にロイヤルブルーの車両を目の前にすると、その豪華さに圧倒されるだろう。
列車に足を踏み入れると、ラリックが装飾した150以上の幻想的なガラスパネルや情緒あふれる室内ランプなど、歴史を感じる優美な空間にため息が出る。窓際に配置されたブドウと男女のレリーフが施されたパネルは、豊かな実りを象徴しているそうだ。型の中にガラス素材を流す「型押し」という方法で作られ、表面には白く濁らせる「フロスト加工」、裏面には水銀を縫って光を反射させる「鏡面加工」がされている。
1890年代から1910年代にかけてヨーロッパで広まった「アール・ヌーヴォー」(花や植物などの有機的なモチーフと自由曲線を組み合わせた装飾様式)と、1910年代半ば30年代にかけて同様にヨーロッパで流行した「アール・デコ」(直線と立体を用いた幾何学図形をモチーフに装飾様式)の両方の時代に活躍したのがラリックだ。列車の室内装飾を制作したのは、ガラスを使った空間装飾に挑戦していた1928年、68歳の頃だという。フランス大統領専用車両の装飾も担当している。