「こどもの日」の5月5日は、端午の節句。天皇家では、御所のお和室に節句にちなんだ飾り物や、粽(ちまき)や柏餅がお供えされる。柏の葉は新芽が育つまでは古い葉が落ちないことから、子どもの健やかな成長を願う親の想いが込められた和菓子である。ご夕餐には大きな曲げ輪っぱに紫色の菖蒲麩や黄色い兜しん薯(かぶとしんじょ)山吹焼きといった節句の料理をご用意される。今回は、お子さま方の成長をよろこぶお祝い御膳の物語である。
黄色い兜や紫の菖蒲、矢羽根をかたどった彩のよい料理
天皇家にお子さまがお生まれになると、そのときの天皇陛下と皇后さまから犬張子が贈られ、親王の初節句には檜兜(ひのきかぶと)が贈られる慣わしがある。犬張子は箱のようになっていて、中にいろいろなお道具を入れることができるお枕飾りである。檜兜は天皇家が平和を願う独特な兜で、鉄製ではなく檜の木で作られる。
愛子さまのご誕生のときには、天皇陛下(今の上皇陛下)と美智子さまから犬張子が贈られた。戦後は途絶えていたが、愛子さまご誕生にあわせて従来の製法で復活されたのだ。そして、悠仁さまの初節句には、檜兜が贈られた。檜兜は色付けされて金色に輝き、上部には華やかな花の造花が添えられている。美智子さまはおばばさまとなって、お子さま方の成長を見守られたのだ。
平成30年「こどもの日」のお祝い御膳
陛下と美智子さまがご成婚60年を迎えられた、平成30年の5月5日のご夕餐のお祝い御膳も、季節の味を大切にしつつお子さま方の目を楽しませるものだった。
爽やかな五月に咲く菖蒲の花をかたどった菖蒲麩、金色の兜のような兜しん薯山吹焼き、矢の羽根の形をした矢羽根蓮根といった、端午の節句らしい遊び心のある料理。道明寺柏葉包み(鶏挽肉射込み)、若々しい稚鮎の唐揚げ、石川小芋田楽、わらびの土佐和えなど季節の味。海老黄身寿司や鰻棒寿司、彩のよいちらし寿司が盛り込まれた、いかにもお子さま方の心が浮き立つようなお祝い御膳である。
平安時代から食べられている粽(ちまき)、江戸時代に広まった柏餅
お和室の床の間には、菖蒲と兜が描かれた軸がかけられ、能の舞台などを表現した御台(おだい)人形が飾られている。その前に並ぶ三宝には、粽と柏餅が供えられた。右の三宝には柏餅餡、左の三宝には柏餅味噌餡。中央の三宝には、葛羊羹粽、外郎粽(ういろうちまき)、水仙粽が立ち上がるように盛られている。天皇家のお子さま方も、子どものための一日を楽しまれたことだろう。
端午の節句に粽を食べるのは、中国に由来する風習だという。紀元前の戦国時代の楚(そ)の詩人、屈原が川に身を投げて亡くなり、その弔いのために笹の葉で包んだ米の飯を川に投げ込んだのが始まりと伝わる。日本でも、平安時代の終わりごろには食べられていたという。もともとは、もち米を植物の葉で包んで灰汁で煮込んだ保存食であり、やがてお菓子となっていった。
和菓子屋の店頭をかざり、一般に馴染みのあるのが柏餅。天皇家と同じように、小豆の餡と味噌餡とが並び、選ぶのが楽しい和菓子だ。柏餅は江戸時代半ばに江戸で生まれた和菓子である。柏の葉は新芽が育つまでは古い葉が落ちないところから、代が途切れないという子孫繁栄の縁起をかついで食べられた。