カキが旨い季節がやってきた。衣はカリッと身はジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、炊きたてのカキご飯。茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。
そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。
世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。これからあなたをカキの世界へ誘おう。連載第5回「やっぱり「日本のカキ」はスゴイ…漁師が驚いた、スペインの料理人が「三陸の養殖カキ」に注目した、意外なワケ」にひきつづき、スペインのカキとホタテ貝とサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼者のたどった道を訪ねる旅だ。
リアス海岸の本家、ガリシアへ出発
1998年(平成10年)6月、わたしは矢も楯もたまらず、ふたりの息子をつれてスペインへ旅立ったのです。
最初の訪問地は、北リアスの中心、ラ・コルーニャ市です。
どこまでも青空が続いて暑い、マドリッドのバラハス空港から飛行機は飛びたちました。メセタという茶褐色の乾燥した大地が広がっています。40分ほど飛ぶと、前方にいきなり雲のかたまりが見えてきたのです。「あのあたりから『しめったスペイン』となります」と、通訳の原田さんが教えてくれました。
飛行機から下を見ると、緑が濃くなってきて、やがて養殖の筏が点々と浮かぶ風景があらわれてきました。息子たちが、
「なんだか家に帰ってきたようだね」
というほど、風景が三陸に似ているのです。
ラ・コルーニャ市は、ビスケー湾寄りの人口約30万人の都会で、古い歴史のある街です、スペイン最大の魚市場があり、ヨーロッパでも有数の漁業基地なのです。
さっそく魚市場へいってみました。北海を漁場とする大きなトロール船が、ところせましと並び、水あげをしています。小さな巻き網船が、新鮮なイワシを水あげしていました。ここの人たちは、イワシがとても好きなんだそうです。
レンタカーを借り、飛行機から見えた、筏が浮かんでいる湾を目ざしました。道は入りくんだ湾なりに曲がりくねっていて、三陸の道と同じです。なんだか、外国に来ているという気分ではありません。