旅一番の相棒は殺虫剤!
片方しか点灯しないライトでバスは爆走していたが、事故現場から1時間も経たないうち、途中の村で停まった。夜は盗賊がいるから運転は危険なのだという。バスの下に毛布を敷いて寝る人もいれば、村人にお金を払って部屋を用意してもらう人もいる。
私が案内してもらった丸い小屋は、床はなく土壁に藁の屋根だが、それでもカンヌキとベッドとランプがあるだけありがたかった。
荷物を置いた私は、持っていた強力殺虫剤でベッドをくまなくスプレーした。それまでのアフリカの旅では、ベッドに寝ればノミにやられ、古いソファに座ればダニにやられ、さんざん血を吸われたり、噛まれたりしていたので、もはや殺虫剤は旅の一番の相棒であった。
殺虫剤の匂いでむせた私はドアを開けた。外には真っ黒な夜空に美しい三日月と天の川が燦然と輝いている。その下ではバスの乗客と村の人が火を起こして輪になって踊って歌っていた。
ドアから首を伸ばしてジーッと見ている目の細い私に気が付いたおばさんがやってきて、片言の英語で、「ユーも、こっちきて歌おう」と腕を引っ張る。世界のどこにいても、おばさんはおせっかいで親切だ。
「私、見てるだけでいい。歌は下手だから」と首を振るも、「ほら、ほら」と手拍子される。渋々、みんなと声を合わせて歌ってみたのだが、単純なメロディーなのに私ひとりだけ、音程がずれているのが自分でもわかる。
おばさんは苦笑いして、「うーん、それじゃ、あの子たちと踊りなさい」と輪の真ん中に私をグイッと押し出した。
アフリカのダンスといっても、部族ごとに全然違う。ジャンプする踊りだろうか、レゲエのような感じだろうかと、見つめていると、5、6人の少年少女が輪に入ってきて、「せーの!」とばかりに、笑顔でブルブルと全身を激しく震わせ始めた。
あれ? これはイントロ? いつ踊り始めるの? と待ってみたが、どうやら、この人間バイブレーターのようなブルブルとした動きが踊りのようであった。
「この動きは来世でアフリカ人に生まれかわらなければ無理」と後ずさりを始めると、子どもたちが私をからかってブルブルしながら全員でじりじりと近づいてくるのだ。ちょ、こ、怖い!
「わかった、わかった!」
見様見真似でブルブルと体を震わせ……と思ったのは私だけで、アフリカ人の目には、カクカクユラユラとした妙な動きに見えるらしい。誰もが私を見て、ヒャーハッハッハ! と転げまわって大笑いしている。
先ほどのおばさんは「日本人ってハイテクで何でもできる気がしたけど、歌と踊りはこんなに下手だなんて!」と、笑いすぎて涙目だ。いや、こんな日本人ばかりじゃないのに、祖国に申し訳ない。
しかし、アフリカ人のひとりがおもしろがって私のマネをし始めると、皆がつられてカクカクと踊り始めたので、ありがたいことに輪の中にいても違和感がなくなった。もしかしたら、サバンナにカクカクした踊りが加わるかもしれない。