うっかり通じてる!?
ルワンダとタンザニアの国境も無事に越え、検問のトイレで服を着替えると、かゆみもだいぶマシになった。次のバスでもなんとか座席を確保でき、ほっとして窓から美しい夕焼けを眺めていると、パスン! と音が鳴ってパスが傾いた。パンクである。ああ、またか。
日本で何もないところで何時間も待たされたら大騒ぎかもしれない。しかし、アフリカ人は文句も言わず、「休憩! 休憩!」と、皆、それぞれ布を地面に敷いて横になる。
サバンナではパンクやエンジントラブルは日常茶飯事だ。それより怖いのは事故である。車同士がぶつかる事故より、屋根に荷物を積みすぎて倒れる事故のほうが多いらしい。その証拠に、道端に時々、黒焦げのバスやサビた乗用車がひっくり返っている。
キリンやシマウマが遠くに走っていれば「ああ、アフリカだなあ」と感動するのだが、黒焦げの車を見るたび、「これもアフリカか」という神妙な気持ちになるのだ。
日が完全に沈み、薄暗くなりはじめたころ、運転手さんが急にブレーキをかけた。窓から首を出すと、道のど真ん中で1台の大型バスが横に倒れているではないか。
どうやら転んだばかりのようで、荷物はあちこちに散らばり、窓から人が這いずり出てきて大騒ぎだ。私たちもバスを降りて様子を見に行くと死んだ人はいないようだが、額から血が流しているおじさんがいた。オレンジ色の布を体に巻き、首にはじゃらじゃらとネックレスをかけている。タンザニアには100以上の部族がいると聞いたが、このあたりの人なのだろうか。
日本語で「おじさん、水、いる?」とペットボトル片手に声をかけてみたら、「んあ~? へっくしょん!」と大きなくしゃみで返された。すると、なぜかおじさんが何かを話しながら、口をスパスパする。もしかしてタバコをねだっているのかもしれない。
思わず日本語で、「タバコ? 持ってないよ。私、吸わないもん」と手をふると、「んお?、ワタ●×▽★モン!?」と目を丸くして驚かれた。
スワヒリ語のイントネーションとも違うし、もしかしたら、「ワタシスワナイモン」と近い言葉が、おじさんの部族の言葉では、何か意味を持つのだろうか?
私は慌てて、「ごめん、今の日本語なの。ええと……英語で言っても通じないよなあ……」とつぶやくと、おじさんは「ゴメエエ~、イマ……ノ!?」と今度は目を丸くして、鼻の穴をふくらました。どうしよう、何かうっかり通じている!
結局、おじさんを驚かせただけで何も役に立たないまま、バスの運転手に「早く乗れ」とせかされてバスに戻った。そして倒れたバスを置き去りにして何事もなかったかのように走り去る。
えええ? ちょっと、あの人たちどうなるの? 近くに村もなさそうだし、夜は猛獣もウロウロしているというのに……と唖然としたが、これがサバンナの掟なのだろうか。