人気ナンバーワンは「チェリー風焼きチーズカレー」
だからこそ、夫婦の絆で守ってきた子供のような店をもっと楽しみたい。名物の味を記しておきたいのだ。時代と共に生まれたいくつもの料理もまた、この店が愛されてきた証だから。
ハンバーグやオムライスなど洋食メニューが並ぶ中でも、人気ナンバーワンが「チェリー風焼きチーズカレー」(850円)。8年ほど前にリニューアルした際に誕生した、この店ではまあ新参者である。
オーブンでこんがり焼いたカレーは一見すると家庭的な風貌だが、想像するよりもずっと本格派。頬張れば牛と豚の挽き肉を使った自家製ルウの濃厚なコクが広がり、スパイスの刺激が舌の上を颯爽と駆け抜けていく。チェダーなど3種のチーズとトッピングの半熟卵を絡めると、辛さがまろやかな風合いに。しみじみ、美味しい。
実はこれ、テレビ番組の企画で生まれた料理なんだそうだ。それも「崖っぷちの飲食店を繁盛店にする」という再建ストーリーの密着企画。「なぜかうちが選ばれて(笑)」とふたりは苦笑するが、この出演が転機となった。専門家の提案で新名物を作ることになり、宏明さんが青山の人気店で修業。番組内で完成させた焼きカレーが大当たり。「出演していたおぎやはぎさんも店に来て、美味しいと言ってくれて。昼夜共にうちの人気メニューになったんです。でも私、おぎやはぎさんって誰なのか全く知らなかったんですけどね。ふふふ」。郁代さんがお茶目に微笑む。
定番は「昔ながらのナポリタン」
さて、焼きカレーが最近の看板スターなら、創業から変わらない古参の人気者が定番の「昔ながらのナポリタン」(650円)だろう。トマトが濃い長野産のケチャップを使い、バターで炒めたリッチな味わいはいい素材を使って作る実直な旨さが印象的だ。具がハムやベーコンじゃなくて鶏肉というのがちょっと変化球。唇の周りを真っ赤にして頬張れば、麺がちゅるんっと弾んで鼻の頭にソースが飛んだりして。やっぱこれこれ、派手さはないけど素朴な美味しさ。喫茶メニューの王道だ。
“マドンナ”と名付けたいほどエレガント!「プリンアラモード」
そしてもう1品、メニューに載せてない隠れた名物が「プリンアラモード」。おしゃれに着飾った盛り付けから、私は勝手にこの店の「マドンナ」と呼んでいる。まあ、写真を見てびっくりしないでほしい。メロン型の器にプリン、アイス、フルグラ、旬のフルーツが10種類以上どっさり。華やかさもさることながら、食べても食べても減らないんじゃないかと思うぐらいのボリュームでたったの800円。高級バーなら値段のゼロが1個多いんじゃないだろか。
「テーブルに運ぶと、わあっと歓声が上がるのがうれしくて。誕生日のサプライズとか、男性ひとりで全部召し上がる人もいますよ」
先に“隠れた名物”と書いたが、今やこれ目当てのお客さんも多くてまったく隠れてない(笑)。きっかけは特徴的なメロン型の器を購入したことだったという。
「40年ほど前に行商のおじさんが器を売りこみに来て、当時1個2000円もしたけど10個ほど買いました。それまでは、よくあるプリンアラモード用のガラスの器を使っていて、注文が少なかったんだけど、メロン型にしたら人気になって。もっと喜んでほしくて4年ほど前からどんどんフルーツの量が増えていったんです」
お客さんに楽しんでもらいたい、驚かせたい。そんなピュアな思いがあふれ、文字通り器にあふれんばかりのプリンアラモードになったのだ。ちなみに店が忙しい時間帯と、数人でこれだけの注文はNG。儲けなしのサービスメニューなんだから当然です。