東京路線バスグルメ

複雑なスパイスが醸す奥深いチキンカレー、力道山のお墓にたどり着いたバス旅の醍醐味 東京路線バスグルメ・商店街編(4)

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地元住民の“生活の足”を実感 さて縄文時代に思いを馳せた後はいよいよ、目的の商店街を目指します。ここまでそれなりに歩いたから、大森駅まで戻るのは面倒だなぁ、と思ったら「井03」系統はもっと北のJR大井町駅前から出てて、公…

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大田区は大森区と蒲田区とが合併して出来た区で、東京23区では面積が最も広い。ただまぁ羽田空港が区面積の3分の1を占め、2位の世田谷区を上回ったのも空港を拡張したから、という微妙な勝負の結果らしいんだけど。と、とにかく「広い」ということはそれだけ、どこの駅からも離れた商店街もありそうだ、と睨んで探してみたら、見つけましたよ。「観音通り商店街」

大森と言えば「大森貝塚」

JR京浜東北線の大森駅と、東急池上線の池上駅の中間辺りにあるらしい。大森駅と池上駅をつなぐ東急バス「井03」系統などに乗れば、10分程度で行ける、とか。

てなわけでやって来ました、大森駅。ずっと前に来たことはあったけど、やっぱり大森と言えば貝塚でしょう。目指す商店街とは反対方向に当たるけど、まずはそちらへ行ってみる。駅前を横切る、商店が立ち並び人通りも多い「池上通り」を、右へ。緩やかな坂を下って北に歩くと、右手のビルの前に「大森貝墟(かいきょ)」と書かれた石碑が現われます。

大森貝墟

ただしこれは、レプリカ。案内に従ってビルの間の階段を下り、「本当にこんなところにあるの?」とちょっと不安になったところで、ようやく本物が現われる。線路ギリギリの際に立ってて、正面から全体像を撮るような距離はとても確保できなかった。

階段の脇には大森貝塚の発見者、モース博士(1838~1925年)の肖像と説明板があり、それによると、博士は1877(明治10)年、横浜から新橋に向かう車窓でこの貝塚を見つけたのだ、とか。線路ギリギリに碑が立ってるのも、当然。貝塚がここになかったら、博士に発見されることもなかった、のかも知れないんですね。いやぁ、納得。

品川区には、モース博士の胸像

ところが大森貝塚、縁りの場所はここだけではありません。池上通りに戻って更に北へ行くと、またも右手に今度は大きな公園が現われる。こちらには実際の貝塚の地層を示した展示や、モース博士の胸像なんかもあって、やはり線路際に石碑が立っている。

大森貝塚遺跡庭園

どうせなら一ヶ所にまとめればいいと思うんだけど、実は前者は大田区、後者は品川区という微妙な場所にあるんですね。言ってしまえば両区の縄張り争い。まぁどちらも「貝塚の本家はうちだ」という自負があるんでしょうね。

地元住民の“生活の足”を実感

さて縄文時代に思いを馳せた後はいよいよ、目的の商店街を目指します。ここまでそれなりに歩いたから、大森駅まで戻るのは面倒だなぁ、と思ったら「井03」系統はもっと北のJR大井町駅前から出てて、公園の目の前も走っていると判明。いやぁありがたいありがたい。「大森操車所」停留所から、望むバスに乗り込むことができました。

「井03」系統に乗車

乗る路線はずっと池上通り沿いに走るだけで、そういう意味では面白い旅程とは言い難い。でもまぁ、仕方がないですね。貝塚まで歩いて来た道を引き返すようにバスは走り、通行人でごった返す大森駅前に戻って来た。ここでかなりの数の乗客が乗り込む。やっぱり地元住民の生活の足なんだなぁ、と実感。そこからバスを降りるまで、立ち客の姿が絶えることはありませんでした。

「井03」系統で向かいます

「入新井第四小学校」バス停で下車。するとすぐ目の前が商店街の入り口で、「KANNONDORI」とローマ字で書かれたアーチが架かってた。入り口のすぐ横にお花屋さんがあるのも、好感度を高める。

「観音通り商店街」の入り口

入ってすぐのところで道路工事をしてたけど、それを越えればカラー鋪装の通りが始まり、これまた好感度アップ。ただ、人通りはお世辞にも多いとは言えませんでしたね。

右手にお持ち帰りのお寿司屋とパン屋が並んでいて、その斜め向かいに町中華発見。こういう、地元に根差した小さな商店街では定番ですね。カラー鋪装と言い町中華と言い、前々回の足立区鹿浜の商店街を思い出させる要素が続きました。

本格のインド料理の店を発見!

ところがその真向かいには、何と、本格インド料理の店があったんですよ。これは珍しい。町の小さなカレー屋さんではなく、本場のインド料理!

ただ、まずは商店街を先へ進みます。少し行くと道が右へ斜めに曲がってて、その角に観音堂があった。商店街名の由来ですね。説明板によると昭和22年、地元の有志が戦後の復興を祈願して復興観音を建立したのが始まり、とか。やはり地元の思いが籠ったものだったんですね。商店街名へと昇華したのも、納得。

観音堂

曲がった先にも商店街は続いていて、やがて車道にぶつかった。渡った先にも商店街が延びていたけど、ここはどうやら別物で「観音通り」ではないらしい。一応こちらも端まで歩いてみました。最後は呑川にぶつかって、終わり。そろそろ引き返しましょう。

メニューは豊富、スパゲッティやピザまで

こちらの商店街には蕎麦屋があって、ちょっとそそられたけどやはり行くべきはあそこしかない。町中華の正面にあった、インド料理屋さん。最初に見つけた持ち帰り店を含め、「観音通り」に寿司屋は3軒あってやたら密度が高いが、他に飲食店は居酒屋くらい。お世辞にも飲食店が多いとは言えない環境にあって、そこに「本格インド料理」の存在は異彩を放って映る。これは、入らないわけにはいきますまい。

異彩を放つ「Kopila(コピラ)」

「Kopila(コピラ)」に入ると店主なのか、いかにも大陸系の、彫りの深い顔立ちのお父さんがお出迎え。日本語はペラペラでしたけどね。

メニューは豊富で、スパゲッティやピザまである。インド風てんぷら、なんてものまでありましたよ(笑)。

でもまぁここは、基本中の基本、カレーだな。ただ、カレーだけでも種類が多く、目移りしてしまう。結局、メニューの筆頭にあったチキンカレー(765円)を注文。辛さも聞かれたけど「普通」と答えときました。最初なんだからその店のオーソドックスを味わっとかなきゃ、ね。飲み物も付いてたのでホットのチャイをチョイス。

ナンの大きさに驚く 

出て来た料理を見てまず、ナンの大きさに驚かされました。おまけに表面は油で、ツヤっツヤ。これは腹に溜まりそうだ。

チキンカレー

カレーはマイルドで、いくつものスパイスを使っているらしく味が深い。ナンに浸して食べると、風味が口の中いっぱいに広がり心地よい。インド悠久の歴史を味わってる気にさせられてしまう。中に潜んだチキンもよく煮込まれてて、舌の上で身がほろりと解れる。あぁ、快感……。

ここの店主、何らかの御縁があってここの地に来ることになったんだろうなぁ。そうして地元に根付いた本格インド料理に、たまたまバスに乗ってやって来た私が出会う。これもまた、悠久の時の流れから派生した運命の巡り合わせなんでしょう。

ただ、とにかくナンが大きくて腹が太る。私の後から入って来た、いかにも地元在住の家族連れは、奥さんが「私と子供の分はナンを半分で」と注文してた。いやぁそれが正解ですよ。チャイまで飲んで満々腹で、店を出ました。

「昭和のプロレス王」のお墓

せっかくなんで池上通りに戻り、更に先へ進んで池上本門寺に行ってみます。日蓮聖人入滅の霊場であり、日蓮宗7大本山の一つに挙げられる名刹ですな。ずっと以前に来たことはあったんだけど、記憶は全く掻き消えていた。へぇ、こんなとこだったっけなぁ、の実感しか湧かない。

池上本門寺

さっきの箇所より上流に当たる呑川を渡り、加藤清政寄進という由緒正しい石段を上がって、境内へ。階段を上った右手には力強い日蓮聖人の石像が立っていた。

日蓮聖人像

仁王門を潜るとその先には、堂々たる風格の大堂が。いやぁこれは見るからに霊験あらたか、と言うか。天気もよかったですからね。青空を背景にした佇まいがまた、絵になる絵になる。

境内案内図を見ると五重塔があるというのでそっちも行ってみた。そしたらその先に、「力道山のお墓」があるという案内が。へぇ、こんなとこにお墓があったんだなぁ。行ってみたら、石碑と共に、ぐっと腕を組んだ力道山の上半身像までありました。

力道山のお墓

このお寺って日蓮聖人と言い、大堂も力道山もみんな力強いですなぁ(笑)。

てなわけで縄文時代に思いを馳せ、インド悠久の歴史を味わい最後は「昭和のプロレス王」にまで出会った一日になりました。やっぱりバス旅は、こうでなくっちゃ!!

「Kopila」の店舗情報

[住所] 東京都大田区中央3-7-9
[電話]03-3371-4717
[営業時間]ランチ11:00〜15:00
     ディナー17:00〜22:00
※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業時間や定休日は異なる場合があります。
[休日]月曜、第3火曜
[交通] JR大森駅から徒歩約22分、「入新井第四小学校」バス停から徒歩約2分

西村健

にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』など。最新刊は、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)。

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