メニューは豊富、スパゲッティやピザまで
こちらの商店街には蕎麦屋があって、ちょっとそそられたけどやはり行くべきはあそこしかない。町中華の正面にあった、インド料理屋さん。最初に見つけた持ち帰り店を含め、「観音通り」に寿司屋は3軒あってやたら密度が高いが、他に飲食店は居酒屋くらい。お世辞にも飲食店が多いとは言えない環境にあって、そこに「本格インド料理」の存在は異彩を放って映る。これは、入らないわけにはいきますまい。
「Kopila(コピラ)」に入ると店主なのか、いかにも大陸系の、彫りの深い顔立ちのお父さんがお出迎え。日本語はペラペラでしたけどね。
メニューは豊富で、スパゲッティやピザまである。インド風てんぷら、なんてものまでありましたよ(笑)。
でもまぁここは、基本中の基本、カレーだな。ただ、カレーだけでも種類が多く、目移りしてしまう。結局、メニューの筆頭にあったチキンカレー(765円)を注文。辛さも聞かれたけど「普通」と答えときました。最初なんだからその店のオーソドックスを味わっとかなきゃ、ね。飲み物も付いてたのでホットのチャイをチョイス。
ナンの大きさに驚く
出て来た料理を見てまず、ナンの大きさに驚かされました。おまけに表面は油で、ツヤっツヤ。これは腹に溜まりそうだ。
カレーはマイルドで、いくつものスパイスを使っているらしく味が深い。ナンに浸して食べると、風味が口の中いっぱいに広がり心地よい。インド悠久の歴史を味わってる気にさせられてしまう。中に潜んだチキンもよく煮込まれてて、舌の上で身がほろりと解れる。あぁ、快感……。
ここの店主、何らかの御縁があってここの地に来ることになったんだろうなぁ。そうして地元に根付いた本格インド料理に、たまたまバスに乗ってやって来た私が出会う。これもまた、悠久の時の流れから派生した運命の巡り合わせなんでしょう。
ただ、とにかくナンが大きくて腹が太る。私の後から入って来た、いかにも地元在住の家族連れは、奥さんが「私と子供の分はナンを半分で」と注文してた。いやぁそれが正解ですよ。チャイまで飲んで満々腹で、店を出ました。
「昭和のプロレス王」のお墓
せっかくなんで池上通りに戻り、更に先へ進んで池上本門寺に行ってみます。日蓮聖人入滅の霊場であり、日蓮宗7大本山の一つに挙げられる名刹ですな。ずっと以前に来たことはあったんだけど、記憶は全く掻き消えていた。へぇ、こんなとこだったっけなぁ、の実感しか湧かない。
さっきの箇所より上流に当たる呑川を渡り、加藤清政寄進という由緒正しい石段を上がって、境内へ。階段を上った右手には力強い日蓮聖人の石像が立っていた。
仁王門を潜るとその先には、堂々たる風格の大堂が。いやぁこれは見るからに霊験あらたか、と言うか。天気もよかったですからね。青空を背景にした佇まいがまた、絵になる絵になる。
境内案内図を見ると五重塔があるというのでそっちも行ってみた。そしたらその先に、「力道山のお墓」があるという案内が。へぇ、こんなとこにお墓があったんだなぁ。行ってみたら、石碑と共に、ぐっと腕を組んだ力道山の上半身像までありました。
このお寺って日蓮聖人と言い、大堂も力道山もみんな力強いですなぁ(笑)。
てなわけで縄文時代に思いを馳せ、インド悠久の歴史を味わい最後は「昭和のプロレス王」にまで出会った一日になりました。やっぱりバス旅は、こうでなくっちゃ!!
「Kopila」の店舗情報
[住所] 東京都大田区中央3-7-9
[電話]03-3371-4717
[営業時間]ランチ11:00〜15:00
ディナー17:00〜22:00
※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業時間や定休日は異なる場合があります。
[休日]月曜、第3火曜
[交通] JR大森駅から徒歩約22分、「入新井第四小学校」バス停から徒歩約2分
西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』など。最新刊は、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)。