意外に古い缶ワインの歴史 缶ビールの歩みとほぼ同じ
ところで、ガタオCANは2021年に「国際缶ワインコンペティション(International Canned Wine Competition=ICWC)」のパッケージデザイン賞を獲得している。このコンペは2019年にアメリカで始まったもので、タイプ別・品種別のカテゴリーごとに優れた缶ワインを選ぶもの。審査基準の第一は品質だが、パッケージデザインを競う部門もある。主催者の一人、アレン・グリーン氏は2400種以上の缶ワイン・コレクションを持つ缶ワイン蒐集家だICWCのウェブサイトにはグリーン氏がまとめた「缶ワインの歴史」が載せられているのだが、これが挑戦と挫折に彩られた不屈の物語で面白い。かいつまんで紹介すると──
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缶入りワインの試みは、1935年に初めて缶入りのビールが発売されたのとほぼ歩みを同じくしている。36年1月に雑誌に「イースタン社の純正サンキスト・カリフォルニア・ワイン 缶入り」という広告がある。中身はポート、シェリー、モスカテルで、「ナショナル社製の真空二重ライナーを施した缶」が用いられていた。12オンス(約355ml)入りで価格は25セント。初期の缶は上面が平らなスチール缶で、穴を開けるのに「チャーチ・キー」と呼ばれるオープナーが必要だった。当時缶詰されたワインはアルコール度数が20%前後の酒精強化ワインだったため、缶の腐食が避けられず、それが原因であまり成功しなかった。
40年代に登場した「スイート・アデライン・カリフォルニア・ポートワイン」は、上部が狭まった円錐型の形状で、瓶ビールと同じ王冠キャップで閉じられていた。以降しばらくはこのスタイルが缶ワインの主流になる。50年代、60年代にはいくつかの缶ワインが市場に出てくるが、いずれも短命だった。アメリカ以外で初めて造られた缶ワインはオーストラリアの「ベッリヴェール ピクニック ドライ・レッド」だった。1オンス(384ml)入りで、平らな上面。胴には紙ラベルが巻かれていた。ほぼ同じ頃に、フランスでベルナール・カイヤン社の「缶入りボルドー・シュペリウール」(350ml入り)が発売される。
白ワインの缶入りは70年代後半にオーストラリアの生産者によって初めて広く流通させられた。白ワインは酸度が高い分、缶内部の腐食どめの技術が追いつかなかったのだろう。81年にはイギリスが350ml入りのずんぐりとした缶にフランスワインを詰めた白と赤のペアを試験販売(この頃にはフランスはアメリカでの缶ワイン販売をあきらめて撤退している)。80年代、イギリスでは250ml入りのスマートな缶が主流となり、中にはドイツワイン、イタリアワインなど様々な産地のものが詰められ、選択の幅ができた。さらに大手スーパーが自社のロゴの入ったODM缶ワインを展開するようになった。
80年代、アメリカで缶ワインの世界をリードしたのはワインクーラーだった。カナダドライ社など大手がこの分野に進出、ワインクーラーはブームになった。80年秋、テイラー・カリフォルニア・セラーズ社がユナイテッド航空と共同で6.3オンス(186ml)入りの缶ワイン(中身はフランス産)を開発、82年にはデルタ航空も全便で缶入りワインの提供をすると決定したが、乗客の反応が悪く、早い段階で両社ともに瓶入りに戻している。そんな中、オーストラリアのバロークス社が9年の歳月をかけて、ワインの酸やアルコールに負けない缶の加工技術ヴィンセーフ(VINSAFE)を開発。5年間品質保証という基準を生み出す(10年くらい前から日本でも新幹線ホームのキヨスクなどで見るようになった豪州産缶ワインはここの商品だ)。
映画監督フランシス・フォード・コッポラ氏が興したワイナリーから2004年に発売された缶ワイン「ソフィア・ミニ・ブラン・ド・ブラン」はピンク色のおしゃれな外観。ストロー付きで売られた。この辺りから缶ワインはおしゃれな飲み物という認知がアメリカ市場に広がり始める。缶詰製造ラインがコンパクト化され、小規模なワイナリーが参入しやすくなったことも市場に活気をもたらした。11年にコロラド州デンバーのワイナリーが出した「ザ・インフィニット・モンキー・セーレム」の表には「缶に入った、ありえないほど高品質なワイン」と記されている。このキャッチコピーは缶ワインが「中身」で勝負するようになったことを象徴しているように響く。
(※グリーン氏の許しを得て、筆者が適宜コメントを加えている)
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