猫に恩返し ガタオ缶の売上の一部を寄付
すっかりガタオCANから離れてしまったが、ここで話を戻そう。
冒頭では述べなかったが、ガタオCANにはもう一つ大切な「売り」がある。それは、「ワインを飲んで猫を救う」ことができること。ガタオ缶の売上の一部(1缶あたり2円)が保護猫の里親探しやTNR(野良猫に去勢・避妊手術を施して元の場所に戻す)活動を支援する団体に寄付されるのだ。
この取り組みを企画したのはガタオCANを輸入販売する木下インターナショナル株式会社の松下佳苗さん。実は松下さん自身、打ち捨てられていた赤ちゃん猫をレスキューし、そのまま飼い続けている人だ。ことの顛末をサクッと聞き取りさせてもらったところによると‥‥
2019年の春、近江八幡への旅行から家のある京都に戻ってきた松下さんは、道端で外国人ツーリストの家族連れが何かを囲んでうずくまっているところに出くわす。彼らの輪の中にいたのは生後1週間くらいの子猫だった。「目は閉じられ、鳴くのを諦めたように小さく丸まって震えていました」。近くに母猫の姿はない。外国人ツーリストも途方に暮れている。松下さんは、その場で保護してくれそうな施設に連絡をしてみたが、どこも受け入れてくれなかった。やむなく子猫を抱き上げ、動物病院に連れて行ったところ、獣医から「この子は衰弱が激しく、今日1日もつかどうかわかりません」と言われてしまう。松下さんは、その場で子猫を引き取って面倒を見ることを決意する。獣医は、購入しても無駄になるかもしれないからと、子猫用の哺乳瓶を貸してくれ、粉ミルクを少し分けてくれた。子猫を家に連れ帰り、3時間ごとにミルクを与えた。子猫の息を確認するまでは自分の呼吸ができないような緊張の時間を過ごした。それから数日のうちに、子猫は少しずつ生気を取り戻していったという。松下さんは好きな果物の名前から子猫に「ミラベル」と名付けた。3年近くが経った今、ミラベルはすっかり成猫になり、松下さんの家の主の座についているという。
今回の寄付の取り組みについて松下さんは「猫の絵のラベルで愛されているワインなので、何らかの形で猫に恩返しすることができたらと考えていたのですが、なかなかきっかけがなくて。今回のガタオCANの猫の日の発売が良い機会になりました」と話す。
缶ワインを追っかけて、3つのコラムを書いた。この動きはまだささやかなもので、ボトルワインを駆逐するとか、ワイン文化を根底から変容させるところまではすぐには行きそうにない。しかし、そこには確かな胎動が感じられ、ガラス瓶では届かない何処かへ我々を連れていってくれそうな予感がある。
「猫の日」がらみで2(にゃん)×6個の話に戻せば、前回の1222年は承久の乱の起こった翌年であった。つまり、それまでの朝幕関係が完全に逆転した時代。800年後の「猫の日」を境に、同じように大きな歴史的変革が始まると想像するのも夢があると思うのだがいかがだろう?
ワインの海は深く広い‥‥。
Photo by Yasuyuki Ukita, Kanae Matsushita
Special thanks to 木下インターナショナル株式会社、Allan Green (International Canned Wine Competition)
浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。