みなさま、お野菜を食べてますか? 野菜大好きライターの市村です。農家さんと料理人さん、プロフェッショナルたちにお伺いして、身近な野菜の魅力をお伝えします。今回は栄養たっぷりなニンジンのお話【前編】です!
画像ギャラリー冬と春で味わいがガラッと変わる
和洋中、どんな料理でも大活躍するニンジンは、常備しておきたい野菜のひとつ。料理に加えると色合いが鮮やかになるし、カロテンなどの栄養もたっぷり。そして、このカロテンは油分と一緒に摂ると吸収率がアップする。なんでもカロテンの語源は「キャロット」からなんだそう。
また、ビタミンやミネラル、食物繊維なども豊富に含まれていて、髪や皮膚、粘膜などを守ったり、免疫力をアップしてくれる万能野菜だ。
「長ネギ」編に続き、今回も埼玉県羽生市で『Bonz farm(ボンズファーム)』を経営する農家・大貫伸弘さんと、埼玉県行田市にある『PAZZO-DI-PIZZA GYODA(パッツォ・ディ・ピッツァ・ギョーダ)』のオーナーシェフ・岡田英明さんに、身近な根菜であるニンジンについてお伺いしました。
――ニンジンにはよく流通しているオレンジ色の西洋種と、年末などに出回る東洋種の赤い京人参(金時人参)のほか、黄色や紫といったカラフルなものなど、いろいろあります。大貫さんが育てているのはどういった品種でしょうか?
大貫:オレンジ色のニンジンです。10~3月頃まで出荷する秋冬向けの「らいむ」は味が濃い品種です。特性として、寒さに強いので作りやすく、何度も霜に当たることで甘みが増します。
――寒さから守るため、自分で糖を作るから甘くなるのでしたでしょうか。
大貫:そうです。かつ、冬のニンジンは寒さに負けないようにグッと硬くなるイメージです。
春ニンジンは4~6月、長くても7月くらいまで出荷するのが「ベーターリッチ(R)」です。この品種は香りが良く、甘みがあって美味しいんです。
――美味しいとはどういう意味合いですか? 春のニンジンは爽やかでみずみずしいイメージです。
大貫:そうですね。春ニンジンをはじめとする春の野菜は水をしっかりと吸い汗をかいてのびのびと育つので、みずみずしくサッパリとした味わいです。同じ野菜でも、夏に向かって育つのと冬に向かって育つものとでは、そもそも野菜としてのタイプが異なるので味も違います。
――確かに。春のニンジンは野菜スティックなど生食が美味しくて、冬場のニンジンは味が濃厚なのでシチューといった煮込み料理などに合いますよね。
発芽が勝負! ニンジンの育て方
――ニンジンを育てるのは大変ですか?
大貫:ニンジンは発芽さえしてしまえば、あとは放っておけるので比較的作りやすいほうだと思います。いちばん大変なのは発芽するまでで、種を蒔くタイミングが非常に重要です。水分量や温度にはかなり気を遣います。
――資料によると、原産地のアフガニスタンは冷涼で乾燥した山岳地帯だったから、寒さに強い代わりに、厳しい環境で育つため本当にいい条件でしか発芽しないようになっているとか。
大貫:特に秋以降収穫するニンジンは気を遣います。7~8月に種を蒔きますが、夏場は暑いし、土が乾燥してしまうんです。だから散水チューブを用意したり、水があるところで栽培したり、かけた水が蒸発しないように日除けのネットをかけたりして、発芽するまではしっかりと水分量がある状態にしておきます。1日乾かしてしまうだけで発芽しないこともあるので。
岡田:そんなに繊細なんですね。
大貫:発芽するのに必要な水分を吸う力がニンジンは弱いんです。農家さんによっては一気に何十万円分も何百万円分も蒔くので、発芽が失敗するとすべて台無しになってしまいます。
――発芽しないというのは、種にとってどういう状態なんですか?
大貫:夏によくあるのは、種を蒔く位置が浅すぎて乾燥してしまい、カラカラになって死んでしまうパターンです。
――発芽しない種は死んじゃっているんですね。
大貫:ニンジンの種は本当に小さいんです。そのため、蒔きやすいように種を養分などでコーティングしているものも売っています。でもコーティングしてあると、より水分が必要になります。
――それはコーティングのせいで、種に水が滲み込みにくいということですか?
大貫:そうです。水分が足りないと、芽が出てきたとしても表皮を割るパワーがありません。逆に水分が多すぎてしまうと、割れて出てきても、夏の暑さで蒸れて腐ってしまいます。
種を蒔いたところに台風が来たら、水浸しになってしまったり、種だけ流されたりと大変です。
岡田:それは悲しい。
大貫:特に夏は雑草も多く生えてきます。一般的な農家さんは除草剤などをうまく使いながら育てていると思いますが、僕は有機農業なので農薬を使わないため、夏に種を蒔く秋冬獲りのニンジンに関しては「太陽熱マルチ処理」という方法をとります。
梅雨明けくらいに畑の表面に透明のマルチシートを貼り、そのまま2週間から1カ月くらい放置して日光を浴びせます。暑い日だとシートの下の土は70℃ほどに熱くなるんです。そうすると地表から5cmくらいのところまでは、雑草の種の多くが死んで生えにくくなります。
そこにニンジンの種を蒔き、水分を管理して発芽してくれれば、あとはほったらかしで大丈夫です。
――ニンジンは何日くらいで発芽するものなのですか?
大貫:季節によりますが、1~2週間程度です。
――発芽するまで毎日ハラハラしそうですね。
大貫:そうですね(笑)。春ニンジンに関しては、1~2月頃に種蒔きします。寒い時期なので、今度は黒いシートで覆って温度を保ちます。
――温かくして発芽を促す感じですか?
大貫:はい。30℃程度にならないと発芽しないので、ビニールで覆って温めてあげます。小さなビニールハウスのような感じですね。
――ニンジンってどう育つんですか?
大貫:下に下にと育っていきます。
――あぁ。根菜ですものね!
大貫:頭の部分が少し土から出て、葉っぱがふさふさと生える感じです。土寄せをしないとそのポコッと出た頭の部分が、寒さで赤や紫、緑っぽくなったりするんです。
岡田:それは霜にあたってですか?
大貫:そうです。寒いので乾燥して、頭の部分がカサカサしてきちゃう。そうなると、市場などに出荷する農家は見栄えが悪くなるので土寄せをするんです。
岡田:単に見栄えの問題なんですか?
大貫:そうです。やっぱりオレンジ一色だときれいなので市場での需要が高くなります。
美味しいニンジンは葉っぱの付け根で判断すべし!
――基本的に手作業ですか?
大貫:掘り上げるのは手作業です。1回の出荷量はそれほど多くないので、手でやっちゃえという感じです。
ニンジンは9月から3月までは、畑に置いたままで貯蔵できるのが素晴らしいところなんです。時期により味わいがどんどん変わってくるのも、ニンジンの面白いところですね。
ちなみに8月は暑すぎるので、関東でニンジンは穫れません。夏場に出回っているのは、大規模に作っているところで貯蔵されているものなどです。
――美味しいニンジンを見極めるポイントはありますか?
大貫:葉っぱの生えていたところが小さくキュッとまとまっている方がきれいに成長しているため、味が整っています。
先の通り、下に成長するので、例えば石があるとストレスがかかり横に成長して足が分かれたりします。
根っこと葉っぱが連動しているので、ストレスがかかると葉っぱを伸ばそうとしたり、肥料を吸い込みすぎると成長しすぎて大きくなるなどバランスが崩れます。
縦に割ったときに見える真ん中の部分は「木部(もくぶ)」というのですが、ここは硬いので大きくないほうが美味しいと思います。
ちなみに穴が空いたようになってしまう、“す”が入っているものは育ちすぎですね。
農家さん直伝! ニンジンの食べ方&保存方法
――大貫さんはふだん、どのようにニンジンを食べていますか?
大貫:大根や豆腐などと一緒に味噌汁の具にしたり、カレーやらニンジンしりしりにしたり、千切りにしてサラダにします。ピーラーで薄く切って、鍋で大根やゴボウなどと一緒にしゃぶしゃぶするのも好きですね。
――葉っぱはどうしていますか?
大貫:たまに食べます。刻んでジャコなどと炒めてふりかけにすることがいちばん多いですね。あとは天ぷらやかき揚げにもします。
――ニンジンの葉っぱはけっこう主張の強い味ですよね。
大貫:そうですね。葉っぱだけを求められるお店さんは、刻んでハーブや柑橘類などと和えてサラダにされたりしているようです。
ニンジンはセリ科でセロリの仲間なので、葉っぱの扱いはセロリと同じでいいと思います。
――ニンジンをおうちで保存する場合はどうしたらいいですか?
大貫:ニンジンは比較的長期保存が可能なので、買ってきた袋や新聞紙に包んで常温保存でいいと思います。
6月を過ぎて暖かくなってきたら、冷蔵庫に入れてあげたほうがいいでしょう。
――栄養も見た目も万能なニンジン。後編では、岡田シェフによる、おうちでの食べ方などをご紹介します。
■『Bonz farm(ボンズファーム)』
米作りが盛んな羽生市で数少ない野菜農家。
飲食にまつわる仕事に従事したのち、味がしっかりかつ日持ちすると料理人から絶賛を受ける茨城県の「久松農園」で修業し、2015年に独立。露地栽培・無農薬で「旬であること」「鮮度が良いこと」「美味しい品種を育てること」をモットーに、少量多品目で50品目100種類以上を生産。受注収穫で都内や埼玉県内などの様々なジャンルのレストランに卸している。
いずれは野菜がメインの飲食店を開くのが大貫さんの夢。※農場での直販は行っていません
https://ja-jp.facebook.com/pages/category/Agricultural-Cooperative/Bonz-farm-909476659074224/
■『PAZZO-DI-PIZZA GYODA(パッツォ ディ ピッツァ ギョ−ダ)』
国産ピザ窯を備え、シンプルな中にもヒネリのきいた料理が魅力のピッツァ&窯焼き料理の店。
大貫さんの『Bonz farm』だけでなく、『秩父やまなみチーズ工房』や「米豚」を養豚する『ハッピーズ合同会社』など生産者と積極的につながり、こだわりの逸品を提供している。地元・行田市の農家と共に、オリジナルの小麦の生産に取り組む。2022年の収穫を目指しており、完成した暁にはピッツァ生地などに使用される予定だ。
[住所]埼玉県行田市佐間2-14-16
[電話]048-507-5917
[営業時間]ランチ11時〜15時LO、ディナー18時〜21時LO
[休日]水
[交通]JR高崎線ほか吹上駅よりバスで約12分、「佐間団地」下車徒歩3分
https://www.instagram.com/p.d.p_gyoda/?hl=ja
※記事中の価格はいずれもディナータイム価格
取材・撮影/市村幸妙
参考文献:『からだにおいしい 野菜の便利帳』(板木利隆 監修/高橋書店)、『そだててあそぼう ニンジンの絵本』(かわしろ ひでお へん·いしくら ひろゆき え/農文協)
画像ギャラリー