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海外に出た自衛隊はどう見られるのか

さて、武器の話はさておき、気になることがある。現地でわが自衛隊だけが「後方支援」にあたるということを、各国の軍隊はどういう目で見ているのであろうか。

我々は「自衛隊」と称しているが、よその兵隊から見れば勝手にそう言っているだけとしか思われまい。

「平和憲法に基づく自衛隊なのだから危険な場所には行けません」という理由は、「親の遺言なので営業には出られません」といってデスクにかじりついている勝手なやつ、と映るであろう。これでは炎天下に走り回る多くの営業マンたちのヒンシュクを買う。

そもそも「自衛隊」は公式の英訳では“ Self-Defense Forces”という。「陸上」はこの頭にThe Ground、「海上」は“ Maritaime”、「航空」は“Air”が冠される。

かなり苦しい翻訳である。“ Self-Defense Forces”は文字通りの強引な直訳だが、「防衛軍」でもたぶん同じ訳になるだろうから、これを聞いた外国人がだからといって「俺達とはちがうやつら」だと解釈するはずはない。

「陸上」の“The Ground”は、まぁ名訳といえる。いわゆる“Army”とは違うんだゾ、という感じがよく出ている。しかし“Navy”の代詞としての“ Maritaime”は、かなり苦しい。たぶん“The sea” では間抜けな感じがするし、“Marine”(米海兵隊)では絶対にヤバいので、苦心惨憺の末“Maritaime”としたのであろう。仕方ないか。

 “Air”はさらに苦しい。まんなかの“Self-Defense”をとれば、ただの“Air Forece”になってしまい、これではまるきり「空軍」である。続けて読むと何だか「空軍だけどセルフディフェンスなんだよ」と言っているようで、すごく言いわけがましい感じがする。これもやはり“The sky”では間抜けだし、まだか“The heavens”というわけにもいかないので、ま、いいかと決めてしまったのだろう。

こうした名称を各国の兵隊達はどう解釈するであろうか。たとえば一緒に酒を飲み、からみ酒の米兵に「おめぇら、どうなってんだよー」と追求された場合、わが隊員はそのあたりをちゃんと説明ができるであろうか。

仮に、優秀で酒席のマナーも良い防大出身の幹部が“ Self-Defense”をことさら強調して、危ないことは出来ない旨を説いたところで、

「そんなこと言うんなら、うちのペンタゴンだってThe Department of Defense(=国防総省)だぜっ!」

と言い返されれば、グウの音も出るまい。要するにことアメリカにかかわらず、「国防(ディフェンス)」は万国共通の軍事的立前であるのだから、自衛隊と各国軍隊のちがいは、“Self”の一語に尽きるわけで、“Self”のために危険なことはできない、と解釈されてしまうのではなかろうか。

かくて酒場にたむろする世界の目は、「てめぇの身の安全のために後方にいる」日本の軍人たちに、冷ややかに向けられることであろう。そしてこの誤てる認識は、経済大国日本の商業的イメージと、たぶん容易に重なる。

と、このように自衛官は、行くまではさんざ世論のオモチャにされ、行けば行ったで世界中から白い目で見られるのである。

私は、だからどうしろという意見は持たない。ただ、わが愛すべき後輩たちが何だかなりゆきで海を越え、未完の歴史と繁栄のツケを、一身に背負わされて働いているような気がしてならないのである。

ところで、ひとつ疑問に思うのだが、もし彼らがゲリラの機関銃に急襲されて抗う術もなく死んでしまったら、それは殉職というのであろうか、戦死というのであろうか。

(初出/週刊現代1994年10月1日号)

『勇気凛々ルリの色』浅田次郎(講談社文庫)

浅田次郎

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄(メトロ)に乗って』で第16回吉川英治文学新人賞を受賞。以降、『鉄道員(ぽっぽや)』で1997年に第117回直木賞、2000年『壬生義士伝』で第13回柴田錬三郎賞、2006年『お腹(はら)召しませ』で第1回中央公論文芸賞・第10回司馬遼太郎賞、2008年『中原の虹』で第42回吉川英治文学賞、2010年『終わらざる夏』で第64回毎日出版文化賞、2016年『帰郷』で第43回大佛次郎賞を受賞するなど数々の文学賞に輝く。また旺盛な執筆活動とその功績により、2015年に紫綬褒章を受章、2019年に第67回菊池寛賞を受賞している。他に『プリズンホテル』『天切り松 闇がたり』『蒼穹の昴』のシリーズや『憑神』『赤猫異聞』『一路』『神坐す山の物語』『ブラック オア ホワイト』『わが心のジェニファー』『おもかげ』『長く高い壁 The Great Wall』『大名倒産』『流人道中記』『兵諌』『母の待つ里』など多数の著書がある。

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おとなの週末Web編集部 今井
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