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ワイン造りと小学校を軸に町の人口を増やしたい

余市町の人口は最新の数字で17664人(2022年3月末現在)。1960年の28659人をピークにほぼずっと右肩下がりだ。ワイナリーが集積する登町地区でさえ、2015年に570人だった人口が20年には490人に減少している。歯止めのかからぬ人口減少への危機感と新規就農者を中心とした移住者が多いことから、この土地にはいつしか外来者を快く受け入れる気風が育っているのかもしれない。曽我さんは「(将来的に独立してワイン造りをするために)うちで研修したいという人を受け入れる際には、登小に通う子どもがいる人を優先するようにしています」と言う。ワイン造りは時間のかかる事業であり、次世代、さらにはその次の世代まで見通したビジョンを持って、腰を据えて取り組むべき仕事だということだろう。「登小学校を軸にあれこれ考えて、人口を増やしていこう、移住してくれるような雰囲気を作っていこうと、おやじたちと話しているんです」

14年から余市に暮らす山中敦生さんは茨城県の出身。曽我さんの下で研修し、16年に自身のブランド「ドメーヌモン」を立ち上げた。一人娘の日乃(ピノ)さんが登小3年に在学している。それまでにも「登探検」(これは学校行事の一環)と称して山中さんのブドウ畑を子どもたちに見学させるなどしていたが、去年の収穫時期には「おやじの会」として2期目のワイン造り体験のために施設を提供した。「娘は、作業は楽しいけど大変だったと言っていました。曽我さんは我々の仕事を体験させることで、子どもたちの親に対する敬意が増したと言っていますが、うちの娘に関しては特にそういう反応はなかったですね(笑)」。ワイン造りに入る前はスノーボードのインストラクターをしていた山中さん、今年の冬は子どもたちにスノボを教える予定だ。

ブドウ畑を「探検」しに来た子どもたち(左端は山中さん)

将来の夢はワイン造りや農業に携わること

「おやじの会」の取り組みを学校側はどう見ているのだろう? 登小学校の名取俊晴校長に訊いてみた。名取校長は、余市町のある後志(しりべし)管内で管理職を含めて長らく教職に就いてきた大ベテランで、町が行った校長公募に「自らの経験を活かしたい」と応募し、去年の4月から現職に就いている。

「子どもたちが自分の地域の魅力や親の仕事を理解し、誇りを持ってくれるようになるという点で『おやじの会』の活動は非常に有益だと思います。コロナ禍という事情もあって、我々だけではできないことがあります。それを『おやじの会』の皆さんはちゃんとリスクを考えて、やってくれている。本当に素晴らしいことです」

登小の児童たちに将来の夢を訊ねると、ワイン造り、農業、料理人と答える子が多いそうだ。ちなみに、名取校長は子どもたちが手がけたワインを飲んだことがない。「子どもたちが20歳になって自分たちのワインを開ける場に、私も立ち会うことができたらさぞや嬉しいだろうなと想像しています」

さて、誰もが気になるのが子どもたちのワインの味であろう。造りからして、自然で素朴な味わいであることは想像がつくし、なんと言っても間違いのないプロがバックについているのだ。不味いはずがあるまい。20年、21年の両ヴィンテージを実際に飲んだという村井シェフに訊いてみたら、こんな答えが返ってきた。
「それはもう味とか香りとかを超越したものがありました」

ワインの海は深く広い‥‥。

写真提供:曽我貴彦、村井啓人、登小学校

浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。

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