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昔の親方はあきらめなかった

私も修業時代にこんなことがありました。親方の留守中に私が握った寿司に、あるお客さんは「親方とは握り具合が違う」と言って不満たらたらでした。悔しかったけど、お客さんの率直な感想だから仕方がない。それで、別のお客さんが残していった、親方が握った寿司を冷蔵庫に隠しておいて、夜中にこっそり木を削って親方のシャリの形の型を作り、日々、暇さえあれば握って練習するようになりました。親方のふわっとしていて崩れない握り具合を盗みたくて必死でした。

そんな時代に比べて、今は親切に教えてくれるというから羨ましい。「やって見せ、言って聞かせて」というのが基本で、同じことを5回も6回も教えるのだとか。叱り飛ばすなんてもってのほかで、飴玉しゃぶらせ抱っこして、「いい子、いい子」って調子で赤ん坊をあやすようなものだそうです。

でもね、昔の親方たちは、ブチ切れて怒りまくっても、きちんと逃げ道を用意してくれたもんです。味噌クソにこきおろしても、最後は「ま、おまえも一生懸命やってるからな」とひと言声を掛けてくれました。そのひと言が嬉しくてね。叱られてばっかりでしたけど、100パーセント全部叱られたって気持ちにならないから、救われたものです。それにね、当時の親方は見習いの出来がどんなに悪くても、諦めるってことをしませんでした。一人前にしてやろうっていう覚悟を持っていたんですね。そういう意味じゃ、根っこはすごく優しかったんです。

ところが今は、優しいけど、クビにするときはスパッと切って捨てる親方が多いそうです。若い衆がいつものように店に行ったら、「あっ、おまえ、辞めていいよ」ってサラッと言われる。そりゃあ、冷てえもんだそうです。気が短くて怒りんぼの私が言うのもおこがましいとは思いますが、情がないってのは淋しいかぎりですね。

(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』に加筆修正したものです)

お店の界隈は、1970年代の名作ドラマ「前略おふくろ様」の舞台でもあった。

すし 三ツ木

住所:東京都江東区富岡1‐13‐13
電話:03‐3641‐2863
営業時間:11時半~13時半、17時~22時
定休日:第3日曜日、月曜日
交通:東西線門前仲町駅1番出口から徒歩1分

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