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「忠臣蔵」に勝るとも劣らぬ武士道物語

寺を出て「人見街道」をもうちょっと西へ行くと、野川公園の正門。目の前に近藤勇の生家跡が保存されてます。かなり大きな屋敷だったみたいだけど、現存するのは産湯を使った、という井戸だけ。生家である宮川家もかなりの豪農だったんでしょうなぁ。

近藤勇生家跡

実は武蔵野武士は、甲斐武田家と深いつながりがある。武田家本体は織田信長に滅ぼされたが、徳川家康はその遺臣団を潰すことはなかった。中でも徳川幕府に重用されたのが大久保長安(ながやす)で、全国の鉱山管理を任され、八王子を所領地として与えられた。長安は武田遺臣団を中心に同心組を組織し、彼らは甲斐国境の警備や江戸防衛の任に当たった。

その子孫が武蔵野の地で、普段は屯田兵として土地を耕しつつ、徳川幕府に何か一朝(いっちょう)事あった時のために、と武道の鍛錬も怠ることはなかった。幕末、倒幕運動が巻き起こると今こそ徳川家に恩を返す時、と彼らが立ち上がったのには、そうした歴史があったわけだ。

そう考えてみれば、あの「忠臣蔵」に勝るとも劣らぬ武士道物語、と私は思いますよ。地元の人達が今も誇りに思っているのは当然なんですね。

さぁ近藤勇ゆかりの地を回り終えて、次は土方歳三と参りましょう。

野川公園の中を北へ突っ切り、「東八道路」に戻ります。「野川公園一之橋」バス停から再び「武91」系統に乗り込み、先へ。今度は終点JR中央線の「武蔵小金井駅」まで乗ります。

途中、多摩霊園と府中の運転免許試験場の間を走り抜けました。

あぁそうだ、と思い出す。今は都庁で手続きができるようになったけど、以前はここまで免許の更新に来てたんだ。と、いうことはこの「武91」系統。あの頃さんざん乗ってた路線、ってことじゃないか。もちろん更新だけじゃなく、免許そのものを取る時の筆記試験でも来てるわけですし、ね。

てなわけで今更ながらの回顧と共に、武蔵小金井駅前に到着。ここからはさすがにバスで直行することはできず、JR中央線で日野駅まで向かいます。

全く食事のなかった「バスグルメ」、次はちゃんと昼食を摂る後編へ―――。

西村健

にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)など。

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