「イモ科」は存在しない ジャガイモ、サツマイモ、里芋などは、通常「いも類」などと分類され、近い種類の植物のように思われがちです。たしかに栄養学上はいずれも主成分はでん粉で、同じグループとみなして差し支えありません。ところ…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「ナス科の野菜」です。
文:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
余分な塩分排出、体温も下げる
ナスは代表的な夏野菜のひとつ。カリウムを多く含んでいて利尿作用があるため、余分な塩分を排出するとともに、体の熱を逃がし体温を下げる働きがあります。まさに夏にうってつけの野菜といえるでしょう。
成分の90%は水分で、かつては栄養の少ない野菜と思われがちでしたが、ナスニンと呼ばれるポリフェノール(抗酸化物質)や、造血作用のある葉酸(ビタミンB群の仲間)、食物繊維など、魅力的な栄養素を含んでいます。
さて、生物学的にナスの仲間であるナス科の植物は意外に多く、つぎの3つの作物はいずれもナス科ですが、「ナス科ナス属」でないものが一つあります。それはどれでしょうか?
(1)トマト
(2)ピーマン
(3)ジャガイモ
分類学の父、リンネの鋭い洞察力
ナス属でないものは、(2)のピーマンです。
「ナス科トウガラシ属」に属しています。トマトとジャガイモは、外見はナスと似ても似つきませんが、「ナス科ナス属」です。
トマトはかつて「トマト属」でした。トマトは長い間、独自の属(トマト属)と分類されてきましたが、近年発達した分子系統解析(タンパク質のアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列を用いて生物進化の系統を調べる方法)により、ナス属とされるようになりました。ところで、18世紀に分類学を打ち立て、「分類学の父」と呼ばれるスウェーデンの生物学者、カール・フォン・リンネ(1707~78年)は、もともとトマトをナス属に分類していました。リンネの鋭い洞察力に驚きます。
「イモ科」は存在しない
ジャガイモ、サツマイモ、里芋などは、通常「いも類」などと分類され、近い種類の植物のように思われがちです。たしかに栄養学上はいずれも主成分はでん粉で、同じグループとみなして差し支えありません。ところが、ジャガイモは「ナス科」、サツマイモは「ヒルガオ科」、里芋は「サトイモ科」、山芋は「ヤマノイモ科」で、生物学的にはそれぞれまったく別のグループ(科)に属する植物です。そもそも分類学に「イモ科」という分類はありません。いも類は、いずれも根や地下茎が肥大したもので、見た目や成分が似ているために、似た植物のように感じられるだけです。
このことは、「レバー」(肝臓)を考えると分かりやすいでしょう。レバーには、牛のレバー、豚のレバー、鶏のレバーなどがあり、アンコウのような魚類のレバー(普通は「肝」(きも)と呼びます)もあります。しかし、牛、豚、鶏、アンコウはどれも違う生物種です。「いも類」という分類も、それと同じで、部位が近いために食べ物としては似ていますが、生物学上の分類ではないのです。
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