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一番好きだったのは、サツマイモのすりおろしを挟んだコッペパン

献立のバリエーションはかなり豊か。中でも、人気のメニューは何だったのだろうか。

「やっぱりハムカツとか、ささみのチーズカツとか。揚げ物系の人気が高かったですね」

ただ後藤氏の好みはちょっと違ったという。

「カレーとかも普通に美味くって、人気もあったけど。でも僕の中では一番じゃなかった。サツマイモをただ、すりおろした奴。これ、パンの時しか出て来ないんです。僕はこれをコッペパンに挟んで、バターを塗って食べてましたね。あれが一番、好きだったなぁ」

刑務所によって出てくる料理はかなり違うという。例えば府中刑務所には敷地内にパン工場がある。だからご飯よりパンの出てくる頻度が高いのだとか。

「僕のいた川越少年刑務所は、パンが出るのは週1とか、そんな程度でしたね。王道はコッペパン。それからチーズパン、レーズンパン、ライ麦パン。この辺りがオーソドックス。でもやっぱり、もっと甘シャリ、菓子パンみたいのも食べたいじゃないですか」

パンの中では「コッペパン」が王道だという

塀の中の隠語では、甘味のことを「甘シャリ」という。お米を「シャリ」というのは外でも用いられる表現だが、中では食事全般のことを指して「シャリ」の言葉が使われるのだ。上の者が下から食事を取り上げる、「シャリ上げ」という隠語もある。

実は刑務所内では定期的に、「もっとこんなものを出して欲しい」「この料理はやめて欲しい」というようなアンケートがあるという。リクエストを聞いてもらえるなんてことがあるのか、と訝ったが、「いや、それが意外とあるんですよ」とのことだった。

「もっと甘シャリのパンが食べたいな、と思って。『チョコレートパン』ってアンケートに書いて出したんですよ。そしたら本当にちゃんと出た。嬉しかったですね、あの時は」

「焼き魚」が断トツで不人気

逆に、「あれは食べたくない」なんてものもあるのだろうか。

答えは開口一番「焼き魚ですね。ダントツ人気なかった」と、これまた意外だった。

聞いてみたところ調理の仕方に問題があるようだった。

川越少年刑務所はとにかく収容人員が多い。大量の受刑者用に魚を調理するため、生魚をベルトコンベアに載せて、工場の機械のように流れながら赤外線で焼く。その時間も短い。だからどうしても生焼けになってしまうのだそうだ。

「身の部分だけちょっと、焼けてるくらい。皮なんかほぼ生のまんまですよ。あれはマズかったなぁ、ホント」

塀の中の食事事情はつくづく、聞いてみなければ分からない特殊な世界の話ばかりのようだ。

文/西村健

後藤祐樹
ごとう・ゆうき。1986年、東京都江戸川区生まれ。1歳上の姉は、元『モーニング娘。』の後藤真希(通称・ゴマキ)。99年に13歳でスカウトされ、2000年にソニンと組んでダンスボーカルユニット『EE JUMP』のメンバーとして歌手デビュー。01年に発売した「おっととっと夏だぜ!」がスマッシュヒット。未成年でキャバクラに通っていたことが報道されるなどして02年に芸能界を引退した。とび職をするなどして働いていたが、07年10月に銅線の窃盗容疑で逮捕され、12月には強盗傷害で再逮捕、翌08年5月に懲役5年6月の実刑判決を言い渡された。その後、川越少年刑務所に収監され、12年10月に仮釈放で出所。15年に現在の妻の千鶴さんと結婚し、義父のダクトを扱う会社を手伝うほか、YouTubeなどで活動している。22年1月からは芸能事務所「エクセリング」に所属。

西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県大牟田市生まれ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『バスを待つ男』『目撃』、雑誌記者としての自身の経験が生んだ長編『激震』など。

【後藤祐樹さん著書紹介】
『アウトローの哲学(ルール) レールのない人生のあがき方』(講談社ビーシー/講談社、1650円)。15歳でアイドルとして人気絶頂を極めた男が見た、奈落の底。朝倉未来とも闘い、ユーチューバーとしても活躍する後藤祐樹の波乱万丈の人生を描く。彼の生き方は、無難にしか生きられない我々に教訓と指針のヒントを与えてくれている。「いき詰まったら、読んで欲しい」一冊。

『アウトローの哲学 レールのない人生のあがき方』(講談社ビーシー/講談社、1650円)
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