週刊漫画誌「モーニング」(講談社発行)で連載中の「クッキングパパ」は、主人公のサラリーマン荒岩一味が、得意の料理の腕を振るって、家族や同僚らとの絆を深めるストーリーが人気。
著者のうえやまとちさん自身が、試行錯誤を繰り返しながら作り上げた自信作のオリジナルレシピを、詳細なイラストと臨場感あふれる筆致で紹介しています。本稿では3月3日号で通算1600話を突破した膨大なエピソードのなかから、毎週1つを取り上げ、その料理にまつわる四方山話をお届けします。
長引くコロナ禍で、自炊をする人が増えているいま、「クッキングパパ」を参考に料理を作って食べて楽しんでみませんか。第33回は「がめ煮(筑前煮)」です。
「筑前煮」と「がめ煮」は同じ? 違いは鶏肉にあり!?
クッキングパパの舞台、福岡県の郷土料理「がめ煮」。農林水産省が、「次世代に伝えたい大切な味」として選定している「うちの郷土料理」にも掲載されています。
それによると、「博多の方言で『がめくりこむ(寄せ集めるの意味)が名前の由来とされている」と記されています。一般的には「筑前煮」とも呼ばれています。
両者の違いについて同省では、筑前煮が「骨なしの鶏肉」を使うのに対し、「骨つきの鶏肉が使われることがある」のをがめ煮として区別しています。クッキングパパ第11巻「COOK.107 うまかばいっ!! 博多がめ煮(筑前煮)」では、骨つき鶏肉が使われています。
荒岩流「がめ煮」は旬の根菜をたっぷりでだしいらずの美味しさ
材料はほかに、新物の根菜としてサトイモやレンコン、ゴボウと大根、シイタケをひと口大に切っておきます。
タケノコは水煮が便利ですね。煮物は見た目が地味なので、彩りにニンジンやサヤエンドウは欠かせません。こんにゃくは、味が染み込みやすいよう手でちぎります。サトイモとこんにゃくはあく抜きをしておきます。後は、順番に鍋に入れて煮込むだけです。
まず、鶏肉、サトイモ、サヤエンドウを除く具材を鍋に入れて、それらが浸る程度の水を注いだら、強火にかけます。アクが出ていたら、丁寧にすくい取るひと手間をお忘れなく。
沸騰したら中火にして10分煮た後に、鶏肉とサトイモを入れ、同量の醤油、酒、砂糖で味付けをします。鶏肉の骨から良い味が出ているので、だしは必要ありません。汁が残り少なくなるまで煮つめたら、できあがりです。
煮物は、できあがりをすぐに食べようとせず、少し冷ましておくと、味がじんわり染み込んでいきます。作り置きにもいいですね。
おせちの定番「筑前煮」の具材に込められた願い
さて、がめ煮(筑前煮)は地味な見た目とは裏腹に、正月のおせち料理の定番として、また、お祝いの席でも振る舞われる縁起の良いひと皿です。調べてみると、使われている具材にふさわしい由来があるようです。
種イモにたくさんの子イモが付くサトイモは、「子宝に恵まれますように」。多数の穴が空いているレンコンは、「将来の見通しが良くなりますに」。ゴボウは地中深くまで根を張ることから、転じて「家庭や家業が安定するように」とそれぞれ、いわれがあります。
大根、こんにゃくなど「ん」がつく具材が多用されているのは、「運がつく」からだとか。梅の花に飾り切りするニンジンは、豊かな生活への彩りを添えています。
さらに、これらをひとつの鍋で煮込むことから、「家族みな仲良く、末永く繁栄しますように」という思いを託しているとされています。
いつの世も、人々の幸せを願う熱き思いが込められたがめ煮(筑前煮)の、しみじみとした味わいが、身も心もほっこり温めてくれることでしょう。
文/中島幸恵、漫画/うえやまとち
◆『クッキングパパ』とは?
福岡市博多を舞台に、商社の営業課に所属するサラリーマン、荒岩一味が家族や同僚、友人らに得意な料理の腕前を披露、食を通じて周囲の人々に笑顔とパワーを与える物語。作中ある料理のレシピは、定番料理からオリジナルメニュー、地元九州の郷土料理まで多岐にわたり、詳細なイラストとポイントを押さえた簡潔な説明はいま、すぐ作りたくなると好評を博している。 週刊漫画誌「モーニング」(講談社発行)で1985年から連載している人気シリーズで、2022年9月現在、単行本は162巻。