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日本への視点

西岡たかしは日本の歴史についても明るく、きちんと自分なりの史観を持っている。特に日本に入って来た外国の文化、日本で現代以前に暮らした人々の心情に興味を持っていた。「『ヒュースケン日本日記』に出会ってから、」という本を記したこともある。これは幕末、伊豆国下田に設置されたアメリカ総領事館の通訳、ヘンリー・ヒュースケンが残した『ヒュースケン日本日記』の感想を記した書籍だ。音楽だけではおさまらない西岡たかしの一端を垣間見られる本だ。

西岡たかしの日本への視点は彼の楽曲の中で幾つも発見できる。『おくのほそ道 抜粋』は萩原恭男の岩波文庫『おくのほそ道』にヒントを得て、松尾芭蕉の俳句から東日本大震災、原発、平和などに心を置いたメッセージ・ソング・アルバムだ。このアルバムのどの曲にもあからさまな体制批判の言葉はない。静かに静かに後輩となる日本人へ語りかけている。

「子育てより大切なものなんてありませんでしょ」

西岡たかしのあらゆることへの徹底は生活にも及んでいる。1980年代に入ってから、しばらくの間、世に出ず、アルバムもリリースされない期間があった。この間、西岡たかしは離婚によって引き取った息子の子育てをしていた。息子と会話し、朝は弁当を作って学校に送り出す。そんな生活を続けていた。

“作品を発表する話は頂いたけど、まったくその気になりませんでした。子育てに追われていましたからね。子育てと音楽を作るのとどちらが大切かなんて愚問でしょ。子育てより大切なものなんてありませんでしょ”と、ある時、空白の期間について訊ねたぼくにこう答えてくれた。莫大な仕事量のために育児放棄をして妻に任せ、あげくの果て、浮気をして離婚をしてしまったぼくにとって、西岡たかしの言葉は深く心に刺さった。

西岡たかしや五つの赤い風船の作品の数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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