井出商店の歴史 女手一本で創ったトンコツ醤油昧
復員後亡くなったご主人に代わり家計を切り盛りしていた創業者の井出つや子さんは、昭和28年7月に見よう見まねで覚えた中華そばを屋台で売り始めました。昼間は家業である氷の卸、夜は中華そばの屋台という働きづめの生活で3人の子供を養ったといいます。
創業当時は和歌山中華そばの源流とも言える澄んだ醤油味のスープでしたが、炊き込むうちにスープが濁ってしまいました。その偶然濁ってしまったマイルドなトンコツ醤油味が「井出系」のルーツとなりました。
このスープは地元で好評を博し、井出商店で修行した人や、井出商店の味を目指す人の出した店が徐々に増え、今や和歌山中華そばのひとつの系統を作るまでに至っています。
和歌山ラーメンの特徴とは
・ラーメンではなく「中華そば」と呼ぶ
和歌山では「ラーメン」と呼ばずに「中華そば」と呼ぶのが普通。どの店の暖簾にも書かれている文字は「中華そば」。和歌山の人にとっては、「ラーメン」というとインスタントラーメンがイメージされるといいます。中華そばを主力商品とする店が市内に100軒近く点在し、店舗数も多ければ中華そば好きの人も多いです。
・旱寿司が置かれている
どの店にも鯖の早寿司やゆで卵が置かれており、中華そばが到着するまでの間に食べます。ラーメンに寿司というとちょっと奇異に感じるかもしれませんが、和歌山では当たり前。これがピッタリ合うのです。屋台時代から続いている和歌山ならではの習慣です。
・スープの味は「井出系」「車庫前系」の2系統に大別
戦前から伝わる屋台の中華そばのスープは澄んだ醤油味が主流。当時市電の車庫があった場所が一番の繁華街で、その車庫の前に軒を連ねる屋台の中華そば店が大繁盛していたことから、澄んだ醤油味の系統を「車庫前系」と呼びます。対して、井出商店に端を発する戦後派のトンコツ醤油味を「井出系」と呼びます。和歌山の味は、はっきりこの2系統に分類されます。
・具にカマボコがのる
和歌山では「なると」のかわりに「カマボコ」がのるのが特徴。なるとのような渦巻き模様の入ったカマボコを使う店が多く、屋台から続くベーシックな中華そばに華やかな彩りを添えます。その他の具はチャーシュー、メンマ、青ネギと至ってシンプル。
・和歌山「井出商店」の中華そば
井出商店の中華そばの特徴はスープにあります。豚骨を強火で沸騰させるため、骨の髄からゼラチンが溶け出し、スープと脂をトロリと乳化させます。このため醤油味がうまくマスキングされてまろやかな口あたりとなります。
麺はストレートの細麺。具材は和歌山ラーメンの特徴でもあるカマボコにチャーシュー、メンマ、青ネギといたってシンプル。屋台時代からの素朴さそのまま、それが井出商店の中華そばなのです。