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「マンモス西を引退させた味」

さぁいよいよグルメの方へ行きますか。

マンモス西が食べたのは屋台のうどんだから、立ち食い。やっぱり立って食える店でなきゃいけないよなぁ。ちょっと山谷の範囲からは離れちゃうけど、確か地下鉄三ノ輪橋駅の近くに立ち食い蕎麦屋があったぞ。

記憶を頼りに行ってみると、やはりありました。駅の出口のすぐ隣。「信州そば」の幟(のぼり)がはためいてて、お蕎麦が自慢なんだろうけど、ここは初心貫徹。うどん!

峠の蕎麦

それにしてもメニューがたくさんで迷ってしまう。西は「かけうどん2杯」を頼んでたけど、いつも言ってる通り私は少食だし、「かけ1杯」じゃ何だかなぁ、ですよね。

そこで、「ゲソ天うどん」(550円)を選択。

ゲソ天うどん

いやぁ、いいねぇ。

東京のうどんはお蕎麦に合わせて、醤油たっぷりの黒いツユが多いけど、ここのはほんのり薄茶色。その分、ダシの香りが引き立ってうどんに合う、合う!!

ゲソ天はかき揚げ状だったのが、ツユが沁みて解(ほぐ)れてくる。その過程がいいのですよ。揚げ立ての、サクサクのコロモもよし。でもツユを吸って柔らかくなったのも、またよし。もちろんその中間の段階の食感も楽しめる。

だからこの辺のは、サクサク食べるために素早く口に入れて、この辺のはフニャフニャになるのを待つ。更にこの辺のは、解れゆく過程を楽しみつつ、口に入れる。丼上のかき揚げの、どこをどんな風に味わうか。段取りを楽しんでる内に、あっという間に食べ終わってました。いやぁ、これは堪(たま)らない。

マンモス西は結局ボクシングの道を諦め、地元の食品店の紀子ちゃんと結婚する。「うどん事件」が引退の直接の原因になったわけじゃないけど、やっぱり決意の裏には、あの経験があったことは間違いないでしょう。

だからこれは、「マンモス西を引退させた味」。勝手に命名して、この地を後にしました。

【『あしたのジョー』のストーリー】

東京・山谷の「ドヤ街」にふらりと現われた少年、矢吹丈。ヤクザと喧嘩している姿を見た元ボクサー、丹下段平はその天性的才能を見出す。だが段平が説得しようとしてもジョーは聞く耳を持たない。悪事を繰り返し、とうとう特等少年院に送られてしまう。

少年院には現役ボクサー、力石徹がいた。試合でヤジを飛ばした観客を殴ってしまい、収監されていたのだ。喧嘩自慢だったジョーだが、力石と戦ってみると全く歯が立たない。

ボクシングの素晴らしさに目覚めたジョーは出所後、段平の下で本格的なトレーニングを始める。ライバル力石を倒し、世界一の栄光を目指す「あした」のために……

『峠の蕎麦』の店舗情報

[住所] 台東区三ノ輪2-14-8
[電話]非公開
[交通]地下鉄日比谷線三ノ輪駅3番出口からすぐ右
※新型コロナウイルス感染拡大の影響などで、営業時間や定休日は変動します。

西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)など。2023年1月下旬に、人気シリーズ最新作『バスに集う人々』(実業之日本社)を刊行予定。

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