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相手はなぜ「瀧」だったのか

普段の「バスグルメ」ならばこれで終わりなんだけど、もうちょっと先へ行ってみましょう。

さっきも言った通りこの地には、鬼平の菩提寺詣でや、お岩さんの神社への参拝で来たことがある。とにかく神社やお寺が多いところなんです。『宝来』の近くには服部半蔵の墓、なんてものもありましたよ。

せっかくなんで、再訪してみます。

まずは鬼平の菩提寺「戒行寺(かいぎょうじ)」へ。須賀神社から歩いてすぐのところにあります。境内には鬼平の供養碑が立っている。以前はここにお墓もあったらしいんだけど、「日和バス」にも書いた通り、寺の墓地が移る際に行方不明になってしまったらしいんですね。

戒行寺

それから「お岩稲荷」にも行ってみます。ここに来たのに素通りしたとあったら、祟られてしまいそうですからね。

これは「もののけバス」に書いた通り、実はここには「お岩稲荷」が2つもある。ちょっとした「本家争い」もあるようなんだけど、それはここではいい。追究は控えましょう。

ただ問題は、2つのお宮の間を走る路地が、「鬼横丁」と呼ばれていること。一説によるとお岩さんは、夫の裏切りを知って憤怒のあまり鬼女と化し、この路地を駆け抜けて行方知れずになった、という。

鬼横丁

お墓も多いこの町は、霊界に通じる場所でもあるのだ。

『君の名は。』で瀧と入れ替わるもう一方の主人公、三葉(みつは)は地元の神社の巫女だった。口噛(くちか)み酒をご神体に奉納までした彼女が、入れ替わりの対象となったのはある意味、納得できる。でも、では相手はなぜ瀧だったのか。説明は映画では一切、なかった。

もしかしたら瀧が選ばれたのは、この町に住んでいたから、だったのかも知れないな。「鬼横丁」に佇んでみて、そんな気にもなった今回の旅でした。

【『君の名は。』のストーリー】

東京の男子高生、立花(たちばな)瀧と飛騨地方の山奥に暮らす女子高生、宮水(みやみず)三葉はある朝、目が覚めると互いに身体と意識が入れ替わっていた。この奇妙な現象はその後、週に2、3度の頻度で起こり、2人は戸惑いながらも互いに入れ替わる暮らしを受け入れていく。2人の過ごす環境はあまりにも違っているため、それを実体験することには楽しさもあったのだ。

ところがある時、突然この現象が起こらなくなってしまう。

心配になった瀧は記憶を頼りに飛騨山中の町を訪ねるが、そこで、三葉らを襲った衝撃の運命を知るのだった……。

『宝来』の店舗情報

[住所]東京都新宿区若葉2-5-5
[電話]03-3353-4732
[営業時間]月〜金11時〜14時
[休日]土・日・祝日
※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業時間や定休日は異なる場合があります。
[交通]地下鉄丸ノ内線四谷三丁目駅から徒歩約8分、四ツ谷駅から徒歩約10分

西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)など。2023年1月下旬、人気シリーズ最新作『バスに集う人々』(実業之日本社)を刊行。

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西村健
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