人為的につくられた種なしフルーツ 人為的につくられた種なしフルーツには以下のようなものがあります。 (1)種なしぶどう種なしぶどうをつくる技術は日本で開発されました。種なしぶどうは、もともと植物が持つホルモンの一種「ジベ…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「種なしフルーツ」です。
文:三井能力開発研究所・圓岡太治
自然と「種なし」に
ぶどうの中で最近人気が高まりつつある種なしぶどう。栽培する過程で、種をなくすための処理を行っています。一方、種なしフルーツの中には、人為的な処理をほどこさなくても、自然と種なしになるものがあります。それは次のうちどれでしょうか?
(1)種なし柿
(2)種なしビワ
(3)種なしスイカ
代表例は「温州みかん」
答えは(1)の「種なし柿」です。
植物のうち受粉して種子をつくるものを「種子植物」といいます。種子植物は受粉すると子房の中に種子ができ、多くの場合子房は肥大を始めて果実に育ちます。ところが一部には受粉しなくても実が大きくなるものがあります(これを「単為結果(たんいけっか)」といいます)。その場合、受粉していないので、実の中に種子はできません。
その代表例が「温州みかん」です。温州みかんは、「種なし」が縁起が悪い(「子種がない」に繋がる)として江戸時代には広まりませんでしたが、明治時代になると、その食べやすさと玉の大きさから次第に人気となりました。現在では日本で生産される柑橘類のうち約7割が温州みかんです。温州みかんは接ぎ木で栽培します。
温州みかんと同様に、柿の中にも単為結果をする「平核無(ひらたねなし)」や「利根早生(とねわせ)」などの品種があります。これらは6~7月ごろは小さな種のようなものがありますが、しだいに消えてしまいます(参考[2])。
バナナにも種子がありませんが、これも人為的に作られたものではなく、もともとは自然発生したものです。本来バナナには種子があり、今でもフィリピンやマレーシアには野生の「種ありバナナ」が残っています。「種なしバナナ」ができたのは、突然変異によるものでした。種ありバナナは染色体の数が2本ずつ対になっている二倍体であるのに対し、種なしバナナは染色体数が3本ずつになっている三倍体です。三倍体の植物は、染色体の細胞分裂が不規則になるため、種ができにくいという性質を持っています(参考[3])。
「種なしバナナ」は人間にとって都合がよかったために、大事に育てられ、広まっていきました。種なしバナナは発芽した芽を株分けすることで増やします。なお、これらはすべて同じ遺伝子を持つクローンであるため、病害に弱く、かつて主流であった「グロス・ミシェル」という品種は1950年代から1960年代にかけて流行した「パナマ病」により、ほぼ壊滅状態に追いやられました。
現在世界で栽培されているのは大半がパナマ病に強い「キャベンディッシュ」種です。しかしこのキャベンディッシュにも近年「新パナマ病」と呼ばれる病気が広がっており、強い品種への改良が試みられていますが、種がなく交配ができないため、なかなか容易ではないといわれています。
人為的につくられた種なしフルーツ
人為的につくられた種なしフルーツには以下のようなものがあります。
(1)種なしぶどう
種なしぶどうをつくる技術は日本で開発されました。種なしぶどうは、もともと植物が持つホルモンの一種「ジベレリン」を使って作られます。ジベレリンは成長を促進する作用があり、開花する2週間ほど前(受粉前)に、ジベレリン水溶液に子房を浸すと、受粉しなくても子房が肥大して果実になります。しかし受粉していないので、中に種子は出来ません(種なし処理)。花が咲きある程度子房が大きくなったころ、再び子房をジベレリン水溶液に漬けます(開花後処理)。これによって果実の肥大が良くなり、立派な種なしぶどうが出来上がるのです。ただし、処理に手間がかかるという問題があり、また味が落ちることがあるなどの理由から、すべての品種にこの方法が適しているわけではありません。なお、ぶどうの中にも、もともと種子のできにくい「トンプソンシードレス」などの品種もあります。
(2)種なしビワ
種なしビワをつくる技術は、千葉県で開発されました。二倍体ビワと四倍体ビワを掛け合わせ、三倍体ビワである「種なしビワ」がつくり出されました。種がないため、次世代は苗木から育てます。
(3)種なしスイカ
スイカの苗に「コルヒチン」という物質を使用すると、二倍体から四倍体になります。この四倍体スイカのめしべに二倍体スイカの花粉を受粉させると、その子は三倍体の「種なしスイカ」となります。スイカは野菜であるため、種ができない種なしスイカはこの代で終わりです。種なしスイカに関しては、コストがかかる、味が落ちる、種なしに対する違和感があるなどの理由から、種なしぶどうほど普及していないのが現状です。
以上のように、一口に「種なし」と言っても、その出来方はさまざまです。人為的につくられる種なしフルーツの場合、労力やコストがかかるために必ずしも生産者から喜ばれているわけでもないようです。フードロスの問題とも関わりますが、手間がかかるのを嫌い少しでも便利なものを求める消費者側の意識も考え直す必要があるかもしれません。
(参考)
[1] みかん(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1701/spe1_01.html
[2] 種がない柿があるのはどうしてですか(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0411/01.html
[3] バナナの植物学(日本バナナ輸入組合)
https://www.banana.co.jp/basic-knowledge/botany/
[4] 教えて!ぶどう先生(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1905_06/spe1_05.html
[5] 千葉県育成びわ品種「希房」(千葉県)
https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/norin/nosan/ikuse/biwa.html