「スピーカーちゅうのはその上にレコードを置きたいんだね」いかにも鮎川誠らしい発想
対談はとても楽しかった。ふたりであれこれと話をしていたら、予定の2時間はあっという間に過ぎた。そしていかにも鮎川誠らしい発言もあった。オーディオ好きの読者なら御存知のようにB&Wのスピーカーの多くは天板の上にツイーター(高音を受け持つスピーカーのパーツ)が配されている。それに対し、JBLの天板は平らだ。
“スピーカーちゅうのはその上にレコードを置きたいんだね。だからJBLのように上(天板)が平らな方が好きやね”といった感想はいかにも鮎川誠らしい発想と思ったものだ。
JBL、B&W共にアンプ類など総額約300万円のシステムを組んで用意したので再生音はそれなりに素晴らしい。対談が終わるといつもならそこでお別れになるのだが、その日は少し異なった。対談終了後、もう少しレコードをこの素晴らしいシステムで聴きたい。そう鮎川誠が言い出した。そして、ザ・ローリング・ストーンズのシングルB面「かわいいキャロル」、マディ・ウォーターズのLPなどを目を瞑って、しばし聴き入っていた。
“岩田さん、やっぱりロックというのはいいね。皆がロックを聴いてれば平和になる。戦争など起こらないね”
そう、ポツンとぼくに語りかけた。あのひと言はロックを後の世に伝え続けて欲しいという、彼なりの遺言だったと今は思える。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。